2016/05/05(木)第50回「いつか帰るところ 総集編」(Living Planet/レヴァリアース)



タイトル:いつか帰るところ 総集編
サークル名:Living Planet (Homepage) 作者:桜咲まことさん
ジャンル:レヴァリアース (系列作品「刻の大地」の内容も含む)
購入イベント:コミックマーケット85(2013.12.30) 傾向:本編アフターストーリー


※「レヴァリアース」「刻の大地」についての重大な作品ネタバレが含まれます。

 かつて存在していた漫画雑誌「少年ギャグ王」にて「幻想大陸」、そして同じく現存する「Gファンタジー」で「レヴァリアース」という作品が連載されていた時期がありました。作者は、夜麻みゆきさん。元来ドラゴンクエスト4コマ劇場を担当していた作家さんが描くオリジナルファンタジー作品ということで注目されており、両方ともラジオドラマ・ドラマCDとして製品化されるほどの人気を博していました。

「幻想大陸」が戦士のカイ、ダークエルフのジェンド、子供の十六夜による基本ほのぼの、時々シリアスな物語なのに対し「レヴァリアース」は魔法使いの少年・シオンと旅人の少年・ウリック、妖精のレムによる前半はコミカル、後半はシリアスな物語という形で色分けされ、それが後年「レヴァリアース」のアフタースターリーともなる冒険譚「刻の大地」へと繋がっていくわけです。しかし、これまで紹介した人物の中でただひとり、シオンだけが「刻の大地」には登場していません。

「レヴァリアース」のラストで、シオンが許容量を超えた魔法を使い死亡してしまうからです。

 本作はそのラストから「刻の大地」へ至るまで、ウリック――実際はイリアという名の少女が、どのように想いを抱いていたのかという物語が描かれています。

 シオンが亡くなって3年後、イリアはカイ・ジェンド・ウリックという旅人と出会う。カイと旧知の仲であったことを思い出したイリアだが、目の前でシオンを亡くしたショックから自分の名前を名乗ることはなく、半ば心を閉ざしたままでいた。どうしても思い出してしまうのは、3年前にシオンとレムと共に旅をした日々と「俺の代わ…りに、世界を、旅してくれ…よ…」というシオンの最後の言葉。その意味を考えていたイリアが眠りから目を覚ますと、カイたちとは違う街に身を置いていたことに気付く。慌てて走り出すイリア。その先には、忘れもしない見慣れた後ろ姿があった。 (「いつか帰るところ」本編より)

「レヴァリアース」本編ではシオンの死の直後に終劇し、アフターストーリーである「刻の大地」で登場してからも、カイたちと出会うまでのイリアの心情というのは詳しく描かれませんでした。その上「刻の大地」本編自体も未完のまま終了してしまったことで、今後も描かれることはないと思います。なので、この間にどんなことがあったんだろうとどうしてもモヤモヤが残っていた自分としては、ドンピシャな作品でした。

 シオンといっしょにたくさんしたいことがあったのに、なにも出来なかったまま別の道を歩んでいってしまった。イリアが背負うとてつもない後悔は後半まで回想以外笑顔を全く見せないことにも現れており、レムとふたり、シオンの遺骸を置いて最終決戦の場から去らなければいけないという悲痛なシーンが特に重々しさを感じさせます。

 その後一転して上記あらすじの最後のシーンへと繋がるものの、目の当たりにしたのは「シオンとウリック」が輝いていた時間。傍観者となったイリアは、再会の嬉しさと同時に「これから起こること」を知っていたことで複雑な感情を抱いてしまい、その感情をシオンにぶつけてしまいます。その気持ちがわかるだけにまた違った悲痛さが伝わってきますが、それでもやはりシオンはシオン。目の前のシオンから「自分が知っている」シオンの言葉を聞いたイリアの決断と彼女への"プレゼント"は、やはり彼が"いる"からこそだったのだなと思うことが出来ました。

「描かれない」――特に本作の場合、原作が未完のためそうなってしまったというのはとてももどかしいものでありまして、ある程度の結論が欲しくなってしまうものです。そんな中で出会った本作は「イリア(ウリック)のシオンの間でこういう物語があったかもしれないな」と思える物語で、読んでいくうちに自然と次のページへ、次のページへと本を捲っていました。260ページという大ボリュームもあって、読み応えは十二分。ウリックの、そしてイリアのその後が気になるという方に、是非とも読んで頂きたい一作です。

2016/05/01(日)第49回【特集】「きりん本舗」の飲料・食品同人誌シリーズ


タイトル:「珈琲番付1996-1997」「紅茶番付」「トマジュー番付」
     「米国飲料番付」「ニアウォーターFAN倶楽部」「のり弁当FAN倶楽部」
サークル名:きりん本舗 作者:空腹親方、よろづ山親方、みどり山親方
ジャンル:飲料・食料 購入イベント:1990年代後半~2000年代初頭のコミックマーケット
傾向:日本で発売されたありとあらゆる缶飲料を飲んで番付化。さらには世界の飲料や食品まで。


 1996年、「きりん本舗」というサークルが誕生しました。
 初の同人誌は「珈琲番付」。缶コーヒー200本を二人の親方(御夫妻)が飲み、様々な部門に分類した上で番付していくという実に豪快な企画で、その後もコーラ80本を飲み比べした「コーラ番付」、「珈琲番付」からさらに219本飲み比べて追記した「珈琲番付1996-1997」、飲料を飛び出してコンビニ肉まんにまで食指を伸ばした「コンビニ肉まん番付」などを皮切りに様々な「番付」シリーズを発行されていました。

 その後も様々なシリーズを発行されていたのですが、2001年末に700本ほどを収録した「珈琲番付2001-2002」を最後に活動を停止。現在は「親方のソフトドリンクランド」というホームページにわずかに面影を残すのみとなっています。

 自分が初めてきりん本舗さんの同人誌に出会ったのは、1997年の夏コミ。評論サークルをほっつき歩いていたところ「コーラ番付PLUS」という同人誌を見かけ、どういうものかと手にとって読んでみたら「炭酸度」「黒度」「甘度」「カラメル度」「薬臭度」というグラフがそれぞれの缶の傍らに描かれていて、あまりの細かさに脱帽。その時に「全部飲んでるんですか!?」と聞いた時の「飲んでるんですよー」という空腹親方の姿を今でもよく覚えています。

「コーラ番付PLUS」を例にとってみると、まず飲む環境を整えるため、

・缶コーラは冷蔵庫で十分に冷やしておくこと。
・缶を開けたら1分以内に飲むこと。
・色と炭酸度を見るため、少量をコップに注ぐ。
・味比べは、空腹親方が缶から直接飲み、よろづ山親方がコップから飲む。


 と規定されており、その上でまず「激闘!コカコーラ対ペプシ」という2大コーラメーカーを対決させたコーナーが設けられ「国産レギュラー対決」「低カロリー対決」「色物対決」「ソールドアウト(終売)対決」「輸入物対決」と続いた上で、さらにこの2メーカー以外のコーラを「国産コーラ部門」「輸入コーラ(大手デパート)部門」「輸入コーラ(大手メーカー)部門」「輸入コーラ」に分類……とんでもなく設定されています。「珈琲番付」でも「レギュラー」「無糖」「微糖」「炭焼き」など、「紅茶番付」に至ってはミルクティーでも「レギュラー」「デラックス」と分類するなど、部門付けからしてかなりの徹底が成されています。

 収録されているデーターは「コーラ番付PLUS」の場合「製造元」「商品名」「製造国」「内容量」「JANコード」と先ほどのグラフ、そしてそれぞれの缶の写真に、親方からのコメントと3段階の評価が付記されている形です。それぞれの味の特徴が書かれていることで実際に飲んでみたくなり、購入出来るものを実際に飲んでみると「本当においしい」「ああ、これは……」となったりして、読んでも楽しいし飲んでも美味しいという一冊に仕上がってます。あくまでも参考書的な一冊ではありますが、本書をもとにいろんな飲み物を捜すというのは楽しかったです。

 また、番付ではなくあくまでも飲んだ印象のみを特集した「FAN倶楽部」シリーズもあり、その中には各弁当店やコンビニエンスストア、スーパーマーケットで販売されていたのり弁当を扱った「のり弁当FAN倶楽部」まで発行されていました。

 のり弁当といえば、ごはんにおかかをかけて海苔を載せ、その上に白身魚フライとちくわの磯辺揚げ、きんぴらごぼうを添えて終了……かと思いきや、各店舗で様々な特色があり、千切りキャベツがついていたり、ハンバーグ・チキンカツ・卵焼き・ナポリタン・ソーセージつきという豪華版もあったりという発見も。中にはメインおかずがさつまいもの天ぷらというものがあり、店舗の御意見BOXに投函したらおかずが同価格内で見直されたというエピソードもあったり(その前後のもの両方が収録されています)、楽しめつつもそれぞれほぼ500円以内で色々工夫してるんだなーと知ることが出来ました。

 本シリーズでなにより驚くのは、その収集力と行動力です。一般的には「その地元・近所の」「店や自販機にある」「スタンダードな商品」というのを目にすることが多いわけですが、地産缶コーヒーやトマトジュース、輸入物となるとほとんど目にすることはありません。中でも「珈琲番付」で連続して最後まで横綱になった岩手県のとある缶珈琲があるのですが、岩手に行くかアンテナショップに行くしかない*1というぐらい親方衆の地元でも出回ってないのに何故見つけたのかと驚いたものです。*2米国飲料番付でも、9日間の旅行期間に70本を収集するなどとてつもなくパワフル。最終的には「珈琲番付2001-2002」で700本を収録するまでに至るなど、その収集力と行動力には舌を巻きます。

 収集し、飲み比べをし、そして記事にして入稿する。文字面で見れば簡単に見えますが、実際にそれを個人・家庭で行動に移すとなると大変なことで。期間からすると、1996年1月から2001年12月の丸々6年間。短そうに見えても、とんでもない労力を注ぎ込んだのでしょう。空腹親方こと小金井博司氏も「All About」での最後のインタビューで「ここまで来ると個人レベルでの本の制作は難しくなってきていると思います」と答えており、個人レベルで出来ることの限界を痛感させられつつも、その限界までの挑戦が今なお記憶に残っている一因なのかなとも思いました。

 かつて飲料・食料系ジャンルを席巻したサークルさんとして、今回は「きりん本舗」さんを紹介させて頂きました。なお、前出の「All About」ではその番付の一端を垣間見ることが出来るので、興味をお持ちの方は是非御覧下さい。

*1 : 当時はまだAmazonが存在しない時期から黎明期に番付が作られていました

*2 : そして実際に飲んでみたら美味しい。今現在はAmazonで購入可能です。

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