2016/04/04(月)第26回「Neo Utopia」(藤子不二雄作品評論・解説)

タイトル:Neo Utopia 46
サークル名:ネオ・ユートピア  作者:(代表)蝶野光秋さん
ジャンル:藤子不二雄作品・評論  購入イベント:コミックマーケット75(2008.12.29)
傾向:会員制サークル会報


 80年代から90年代にかけて、雑誌上で同好の士を集めて会員制のサークルを作り、定期的・不定期的に会員からの投稿をもとに作られた会報を送るというやりとりが流行りました。インターネットやメールなどの普及により今では数少ないものになってしまいましたが、今回ご紹介する「Neo Utopia」は86年より活動を開始し、各種イベントを行う他2009年現在47冊の会報を発行しているという老舗の会員制サークルさん。会員の方だけでなく、コミケを始めとした即売会で一般に向けても頒布しているという会報は、イベントリポートの他、藤子作品に関わった方々のインタビューなども掲載されているとても充実した作りになっています。

 46号の本作は、アニメ版ドラえもんなどを制作しているシンエイ動画の専務取締役・別紙壮一氏へのインタビューや30年にわたっての制作年表、創業から現在までの各年代にわたる主要スタッフ・名作の分析や歴代作品に携わってきたスタッフの紹介などをメインとした「シンエイ動画大研究」と、さらにはアニメ版「パーマン」のパーマン1号や「怪物くん」のヒロシの声などを担当した声優・三輪勝恵さんへのロングインタビューの2大特集が中心。他にも「ドラえもん のび太と緑の巨人伝」の監督・渡辺歩氏による見所ガイドや作画監督を務められた金子志津枝さんによるサイドストーリーやイメージイラスト、コメントの寄稿、藤子・F・不二雄氏のアシスタントであったたかや健二氏による回想録マンガや古き名作「ウメ星デンカ」の解説と分析など、ファンにとっては濃厚でとても充実した記事が。その他にも「知る人ぞ知る」と言えるような作品の発掘記事や藤子不二雄A氏の誕生日会の模様など、盛りだくさんの内容となっています。

 未公認ながらも各社の協力を得ているという会報の記事内容は、まさに濃厚の一言。「シンエイ動画研究」では過去に在籍し現在第一線で活躍している宮崎駿氏や高畑勲氏、芝山努氏などにも触れていたり、劇場版ドラえもんスタッフによる寄稿などファンにとっては見所も多く、また三輪勝恵さんへのインタビューでは藤子作品以外の全仕事リストを掲載するなど(個人的にはテイジンのアテレコにまで触れていた細かさに脱帽)、細やかな作りが目立ちます。もちろん会員制サークルということで作品感想をはじめとした読者投稿もあるのですが、上映作品への辛口な意見があったり、有名作だけではなく短編の感想もあったりと作品に対して幅広い会員の方が真っ直ぐ向き合っている印象を受けました。

 それはスタッフの方々についても同様で、記事の内容一つ一つから藤子作品の愛情と熱意をひしひし感じられるほど。古い資料から新しい資料まで取り揃え、作品に携わった人や作品を取り巻く人・事象に取材し、様々な角度から作られる記事は大変読み応えあるものになっています。会員制サークルの会報という側面だけでなく、一冊の読み物としても完成された一冊と言えるでしょう。
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