2016/04/18(月)第39回「ある日の風景」(THE IDOLM@STER)

タイトル:ある日の風景 - allegrissimo -
サークル名:混沌レディースタジオ 作者:DITさん&てぃーさん
ジャンル:THE IDOLM@STER  購入店:まんだらけ秋葉原店(2009.10)
傾向:人気番組に出演するやよいに迫るプレッシャー


 アーケードに端を発し、Xbox360やPlayStationPortable、ニンテンドーDSといったゲーム機やドラマCD、ボーカルCD、アニメ、映画へと様々なメディア展開を見せるシリーズ「THE IDOLM@STER」。個性的な女の子たちの中から一人を選んでプロデュースしていくという本シリーズは同人においても人気を博していて、アーケードでの稼働から5年を迎える現在も活気あるジャンルの一つとなっています。本作はヒロインの一人である元気少女・高槻やよいを主役に据え、某お昼の長寿テレビ番組をモチーフにした「則田和義アワー 笑っていいかも!」に出演することになった彼女を取り巻く思惑や顛末を描いたお話です。

 番組出演前日「お友達紹介」の電話を待っているやよいと、それを見守るプロデューサーと春香・小鳥。緊張でテンパっていたやよいだが、元気に受け答えした後は本当に出演するんだという高揚感に包まれていた。そのきっかけはやよいが前座としてコンサートに出演した元アイドルの歌手・横山紀久美との出会いで、やよいの素質を目にした紀久美は2ヶ月後に出演が決まり、Bランク以上の芸能人が出演することが暗黙の了解となっていた「いいかも」にやよいを呼ぼうと、社長ではなくプロデューサーに直接持ちかけてきた。それが意味するところをよく理解しているプロデューサーは慎重に事を進め、逆に765プロに所属するアイドルたちは祝福し、特に仲の良い伊織は我が事のように喜んでいた。だが番組出演前日、事務所に帰ってきた伊織はドア越しにプロデューサーと社長の言葉を耳にしてしまう。それはプロデューサーの独断を責める、社長の厳しい言葉だった……

 原作でのテレビ出演といえば、目標の一つである「音楽番組」なのですが、現実においてはバラエティ番組の出演もアイドルのお仕事の一つ。原作と現実をミックスさせてキャラの魅力をさらに引き出したお話となっていて、一番の元気印である彼女をバラエティに抜擢したというのは納得させられる選択でありました。プロデューサーやオリジナルキャラであるアイドルの先輩・紀久美や高木社長、伊織たちの思惑に翻弄されてプレッシャーに押しつぶされそうになってしまいながらも、最後は「プロデューサーとの絆」を信じていつも通りの彼女を取り戻し、彼女らしく番組に参加していく姿に思わず笑みがこぼれました。きっかけが彼女とのゲーム中での代表格であるとあるコミュニケーションというのも粋だったと思います。

 お話の最終的な舞台である「某有名昼帯番組」の描写もとても克明であり、司会者であるノリさん(=タ●さん)とやよいのやりとりが鮮明に思い浮かぶほど。本作ではそのさわりと舞台裏しか描かれていませんが、以前「よつばの。読書会5」で拝見した別冊「則田和義アワー 笑っていいかも! 増刊号」ではそのテレフォンショッキング(らしきコーナー)の模様が丸々収録されていて、やよいとハイタッチしたり頭を撫でられたりしてやよいのパワーにどんどん呑まれていくノリさんの姿がとても微笑ましかったです。




 以上までが2010年3月に書いたものですが、その後本作「allegrissimo」と、如月千早編である「a mezza voce」、描き下ろしの秋月律子編「overture(初演)」が収録された「総集編 Vol.1」、星井美希編「before relations」「modulation relations」「after relations」が収録された「総集編 Vol.2」が発行されました。

「relations」シリーズはXbox360版「THE IDOLM@STER」美希編を元にしたお話。どうして実力を秘めている美希が本気を出さずにマイペースでいるのか、そしてそれが招いてしまった過去の悲劇が描かれていて、混沌レディースタジオのお二人なりに解釈された「美希シナリオ」が展開されています。

 "あの出来事"から美希のプロデュース代理をすることになった律子の苦悩や、ある2人の登場によって目まぐるしく変わっていく美希のまわりの環境が描かれ、悲しみ続けることを許されず、それでも少しずつ、少しずつ歩いて成長していく美希の姿に惹かれていきます。美希のそばに寄りそう姉の菜緒、プロデューサー不在からそばで支える律子、いっしょにトップを目指そうと手を繋いだプロデューサー、同僚アイドルの春香とあずさ、レッスントレーナー、作曲者……多くの人々に支えられ、時にはぶつかり合いながら出会った楽曲「relations」を、美希はいったいどう歌い、演じるのか。公式イラストやゲーム中でも存在する美希の特徴的な衣装の解釈も本作で成されていて、その意外な解釈にはただただ驚きました。「これまで」を描きつつ、そして「これから」を感じさせてくれるシリーズでした。

 残念ながら混沌レディースタジオさんは解散してしまいましたが、アイドルマスターの印象深い同人誌を描かれたお二人でした。また「ある日の風景」はあずささん編として「隣に…」が「ねこまた屋」のねこまたなおみさんの作画によって2013年8月に発行されており、今回が前編ということでまた新たなシリーズが展開されていくようなので、改めて楽しみにさせていただきたいと思います。
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