2016/03/21(月)第12回「手のひらの宇宙」(ドラゴンクエスト5)

タイトル:「手のひらの宇宙」
サークル名:岡崎工房   作者:岡崎裕樹さん
ジャンル:ドラゴンクエスト5 天空の花嫁  購入イベント:コミックマーケット74(2009.12.28)
傾向:敵襲により記憶を失ってしまった双子の弟。守れなかった姉は記憶が戻らないことに焦りを覚え……


 もはや国民的RPGと言っても差し支えないゲーム「ドラゴンクエスト」シリーズ。ファミリーコンピューターからスーパーファミコンにプラットホームを移した「ドラゴンクエスト5 天空の花嫁」は幼年期から青年期までという長い時の流れを舞台とし、妻を娶り、魔物が仲間となり、主人公ではなく生まれてくる息子が勇者になるというこれまでとは異なる構成の作品でした。その後、プレイステーション2やニンテンドーDSにも移植されるなど長い人気を博し、同人誌でも様々な方が本作の物語を描かれています。

 本作は、主人公・リュカの息子であるレヴィストと、その双子の姉であるファーナのお話。戦闘中、ギカンテスに痛恨の一撃を放たれたレヴィストは昏睡の後に全ての記憶を失ってしまう。両親のことも仲間だったモンスター達のことも忘れたことに不安を覚えるレヴィストだったが、中でもファーナの悲しそうな表情が脳裏に焼き付いていた。ファーナも同様で、レヴィストを連れ歩くことで記憶が蘇ることを期待するも状態は変わらないまま。そして、思い出せないことを謝るレヴィストに彼女は「レヴィストのことなんか、もういらない!」と告げ、ルーラで去ってしまうのだった。

 全てのこと――勇者であったことさえも忘れてしまった弟と、彼との想い出を心に刻み続けている姉。双子のうち自らでなくレヴィストのほうが勇者となり寂しかったことも、二人でサンチョを追い両親を捜すために城を出たことも、何もかもがファーナにとって全てが大切な想い出。いつもその手にはレヴィストの手を握っていて、導かれたり、ともに勇気を出し合ったりしていた。でも、何もかもを覚えていない彼に手を握られたことを拒絶したときには、それらの全てを失ってしまったという絶望感が感じられました。それだけレヴィストと一緒であったことが大切だったということだと思うのですが、それはレヴィストにとっても一緒。記憶を失ってしまった彼にとってもそれは拠り所だったようであり、やがてそれが希望へと繋がっていくシーンには二人の絆の強さが感じられます。

 PS2版・DS版でこそ彼ら双子の台詞が多く用意されていますが、こうして互いの想いや葛藤というのはなかなか見えないもの。自ら勇者でないことへの葛藤や両親を見つけるという強い決意などが様々な登場人物とのやりとりの中で感じられ、あのシーンの裏側ではこんなやりとりがあったのかなという想像が自然に広がっていくかのような思いでした。また、リュカとビアンカといった両親もしっかりお父さん・お母さんしていて、ビアンカはファーナを抱きしめ、リュカは優しくも真正面からしっかりと諭しているのは微笑ましいところ。「家族」というのがしっかりと描かれているのが、とても見応えがありました。

 岡崎さんが執筆されたDQ5を題材にした作品は多く、過去作品総集編となる「dear our wonderful lives」*1はビアンカ編、フローラ編ともに描かれていて、それぞれの両親の影響を受けちょっとずつ性格が違う双子たちが読めるのが興味深かったです。双子だけの物語ではなく、ヘンリーやコリンズ、プサン(マスタードラゴン)や「かつての天空城にいた女性」、そして「導かれし者」など、彼らにまつわる人々たちとの時を越えた――さらには「世界」を越えた物語にもなっており、姉弟や親子としての関わりや、友達や祖先との関わりといった様々な「絆」が広がっていくのがとても心地よかったです。

*1 : 2009.9.21 ドラゴンクエストオンリーイベント「もうひとつのせかい」にて購入

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