2016/03/11(金)第2回「風が吹く日」(天空のエスカフローネ)

タイトル:風が吹く日
サークル名:Section V   作者:はにわさん
ジャンル:天空のエスカフローネ  購入イベント:コミックマーケット58(2000.8.11)
傾向:シリアス・最終回のその後


 1996年に放送されたアニメ「天空のエスカフローネ」。コミケを始めとした同人イベントではサークル数は多いとは言えなかったものの、根強いファンの人気で様々な本が生まれていき、10年間にわたってオンリーイベントも開かれていました。主なカップリングとしては主人公でありヒロインでもあるひとみと、王子でありヒーローなパァンのもので、今回の「風が吹く日」もそのパァン×ひとみな本の一つです。

 異世界・ガイアでの冒険から戻り受験生となったひとみは、定期テストの結果が悪かったり予備校をサボるなど、無気力な日々を過ごしていた。このままではいけないと思いつつも、結局は以前と変わらず神社で神頼み。パァンと出会ったこの場所で賽銭を投げ込み「どうか、私に少しだけ……」と願った瞬間「あの時」と同じようにまばゆい光に包まれ、ガイアへと飛ばされてしまう。ほんの小さな、だけど切実な願いがパァンや友となった猫人少女のメルル、そして共にガイアでふれあった人々とひとみがわずかな時をともに過ごすことになる。今度は以前とは違う、穏やかな時間の中で……

 アフターストーリーとして冒険した異世界に帰還したり、かつての仲間たちと再会するというのは二次創作の王道パターンであり、実際エスカフローネの同人誌では「ガイアに戻ったひとみがパァンと結ばれる」という作品が多く存在した中で、本作では「自らがいた地球へ還る」という本編の結末に準拠した形で短いながらも綺麗にまとめているのが特徴です。少しずつ復興しているファーネリアの国で再会した仲間たちは、以前と変わらない者もいればガラッと(性別まで*1)様変わりした者もいて、本編では見られなかった女の子同士の華やかなやりとりもあったり。ガイア側の女の子たちがひとみが普段着ている高校の制服を着てみたり、逆にひとみがガイアの民族衣装を着てみたりというお遊び的なシーンもあるのが楽しいです。

 もちろんパァンとひとみのシーンもありますが、好き合っている二人という雰囲気というよりも、どちらかというとお互いが自分の置かれている状況を不安に思いながら、再び会えたことで前に進んでいこうと決意する姿が中心。物語の結末も、地球へ戻ったひとみがその決意を胸に自らが置かれている「受験」という現実に向かい合うという形で締めくくられていて、本編前半で「どうか、私に少しだけ……」とぼかされた願いが明確に示されたのがとてもポジティブな印象を受けました。とはいっても「ガイアのみんなに会いたい」という直接的な願望ではなく、あくまでもささやかな想いを願った結果、みんなと再会できたというお話運びがとても絶妙。原作の雰囲気と登場人物のらしさが隅々まで感じられる、大変佳き作品でした。

*1 : 本編どおり

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