2016/04/20(水)第40回「RE-TAKE」(新世紀エヴァンゲリオン)



タイトル:RE-TAKE 全年齢版 第壱集~第参集
サークル名:スタジオKIMIGABUCHI
作者:きみまるさん
ジャンル:新世紀エヴァンゲリオン 購入ショップ:メロンブックス大宮店(2009.08)
傾向:赤いLCLの海のほとりでアスカの首を絞めたシンジは、
    気がついたらディラックの海から帰還した時まで時を遡っていた。


 二次創作の中には「逆行」という、バッドエンドなどから記憶を保持したまま過去に遡り過去を再編していくというジャンルがあります。「新世紀エヴァンゲリオン」は「Air/まごころを、君に」における結末から逆行するという二次創作が小説・漫画問わず多く存在し、本作もまたその「逆行」を題材にした作品です。

 赤い海のほとりでアスカの首を絞め、絶望の涙を流すシンジ。絶叫とともに意識は覚醒し、気付けば既に崩壊したはずのNERVの病院のベッドにいた。ディラックの海からサルベージされて間も無い時期で、シンジはシンクロテストでもアスカに負けながらも好調。だが、リツコは彼がアスカにわざと負けていること、そして目覚めた頃からレイと距離をとっていたことに気付いていた。そのシンジの脳裏には、赤い海で崩れた巨大なレイの壮絶な笑顔が焼き付いていた……

 逆行作品の多くは過去に犯したミスを取り返すかのように違う行動をとっていく作品が多いですが、本作は最初に「予知夢」という形で「終末」の記憶を保持させながら物語が進んでいきます。わずかながら好転したような世界になったと感じながらも、過去に経験した記憶だという確証を持たなかったことによって、逆にさらなるすれ違いや悲劇を生んでしまう。さらには目の前に「かつて犯した罪」が自らにしか見えない形で現れ、シンジはだんだん追い込まれて心が再び壊れていくのです。

 かつて掴めなかった幸せが今目の前にあれば、人は貪欲にそれを求めようとします。でも、掴めたからといって過去に犯した罪がゼロになるわけではない。掴んだことで、幸せが不幸せに反転する可能性だってある。それがたとえ『自分がかつていた未来』の出来事だとしても。それでも抗おうと何度も立ち上がるシンジと、何も知らなくとも、そして知っていたとしても各時期様々な形でシンジに接するアスカの絆には、弱さを孕みながらもとても懸命で惹きつけられるのです。幾度幾度もリフレインし、様々な形に分岐された世界の果てに辿り着いたアスカの言葉は、まさに誓いそのもの。そしてそれを受けたシンジも自ら歩き始めたことで、ふたりの「これから」を感じさせてくれました。

「断絶」していた物語の結末から更なるふたりの成長物語を産み出し、大きく展開させながらもゆっくりと、静かに帰結させていく。読後には思わず息をつき、再び最初から読み返したくなるほどでした。残念ながらきみまるさんは活動を停止されてしまいましたが、またいつか、何らかの形で新しいきみまるさんの物語を読むことが出来たらと思います。
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