2016/04/23(土)第42回「長門有希の喪失」(涼宮ハルヒの憂鬱)


タイトル:長門有希の喪失
サークル名:From dusk till dawn (Homepage)
作者:東出祐一郎さん(本文)・ニリツさん(挿絵)
ジャンル:涼宮ハルヒの憂鬱 購入店舗:コミック虎の穴
傾向:長門、朝比奈さん、古泉、それぞれとの別れ。


 2006年にアニメ化され、一世を風靡して今なお続刊中のライトノベル「涼宮ハルヒの憂鬱」。当時は2chのVIP板や各種ホームページ・ブログなどで二次創作小説が爆発的に発表され、様々なカップリングの恋愛モノやラブコメ、考察や果てには本編分岐で作者なりの終着点を描くなど多くの物語を読むことが出来ました。その場の中に「PINKちゃんねる」という掲示板群の「エロパロ板」というのがありまして、読んで字の如くいろんな作品のR-18な作品が多く投稿される場になっています。ところが「涼宮ハルヒの憂鬱」のスレッドについては非R-18の作品も多く投稿され、読み応えのある作品を読むことが出来ました。そこに投稿されていたのが、今回御紹介する「長門有希の喪失」、そして同時収録されている「朝比奈みくるの最後の挨拶」「古泉一樹の親友」です。

 ハルヒと交際を始めて3年。キョンはふと、長門有希という少女のことを綺麗さっぱり忘れていたことに気付く。彼女に抱いていた愛しさは、長門自身によって忘れさせられていた。気付いたきっかけは、ハルヒとのピロートーク。長門の話題が出ても曖昧にしか思い出せずにいたのに「有希にキョンがとられるかと思った」と言われたことにより、少しずつ、少しずつ思い出していくようになる。長門に対して愛おしさを抱いたきっかけを。SOS団の中で彼女と過ごした日々を。そして、キョンは行方も知らない長門有希のことを探し始めた。

――「長門有希の喪失」より


 長門有希という少女は生い立ちからして特殊なものでして、有り体に言ってしまえば宇宙人に作られた人工生命体です。最初は感情も希薄でコミュニケーションもとりにくかったのが、キョンたちとの交流によって少しずつ変わっていき、キョンへの感情をきっかけにエラーを発したことで似ているようで違う世界へとキョンを飛ばしてしまうほどにまで心が変化していく。彼女の変化は「涼宮ハルヒの憂鬱」シリーズの見所のひとつにまでなっていると思います。でも、あくまでもSOS団の中心ハルヒ。もしもハルヒとキョンが結ばれたら、ハルヒを監視するという使命を帯びた有希はどうなってしまうのか。

 本作では彼女がとった選択が描かれていますが、キョンへの想いを抱きながらも使命とハルヒとの間で揺れ動く様は、もどかしさすら感じさせます。でも、世界が壊れてしまう可能性があるのならば、そうせざるを得ないと納得させられるのも事実。キョンがその選択に対して疑問をぶつけてしまうのも、仕方ないことだとは思います。心が芽生えた有希が全てを押し隠した上で最後の望みを賭けた結果がこのキョンとの再会なのであれば、悲しいことではあるけれども、止まっていた時計が動き出したということで喜ばしくも感じられます。有希がキョンに対して紡ぐひとつひとつの想いは、有希らしく静かで心に浸みていきました。

 前出のとおり、本作には同時期公開の「朝比奈みくるの最後の挨拶」「古泉一樹の親友」も加筆修正の上収録されています。前者はみくるが卒業してからのやりとりが、そして後者は卒業式後の古泉とのやりとりが描かれています。両者に、そして「喪失」とも共通しているのは「卒業」と「別れ」。それぞれ様々な意味合いを持っていて、それぞれ未来人の使命を持つみくると、超能力者としての力を失った古泉が「その時」を迎えてどう言葉を紡ぐのか。三作共通して寂しい雰囲気を纏っていますが、その中で垣間見えるキョンと彼らの絆の強さが、そして3作全てに出てくるハルヒの存在と言葉が、寂しさだけではなくそれまで築いてきた「SOS団」というものの大切さを感じさせてくれました。

 他にも短編として、鶴屋さんとのミニデートを描いた「灰の雪」と、SOS団+キョンの同級生&鶴屋さんが再びコンピューター研が作ったゲームに挑戦する「涼宮ハルヒの統一」も収録。ニリツさんによる各作品の挿絵も実に場面に相まっていて、ラブロマンスあり、青春あり、そしてぶつかり合いありと実に読み応えがある一冊です。

 なお、現在も「長門有希の喪失」「朝比奈みくるの最後の挨拶」「古泉一樹の親友」に関しては原版が公開されていますので、気軽に読むことが出来ます。まだ原作本編は連載中ですが"もしも彼女ら、彼らが卒業したら"という世界を見てみたい方は一読をおすすめします。

From dusk till dawn of the dead:◆「涼宮ハルヒ」SS - livedoor Blog(ブログ)
OK キャンセル 確認 その他