2016/04/26(火)第45回「im@s punch」「mobam@s chop」シリーズより(THE IDOLM@STER)


タイトル:「im@s punch2 月の裏で」「im@s punch4 月うさぎの輪舞曲」
      「mobam@s chop2 月の裏で、踊る。」
サークル名:BOTTAKURI CLUB (Homepage) 作者:楓月 誠さん
ジャンル:「THE IDOLM@STER」「THE IDOLM@STER シンデレラガールズ」
購入店舗:メロンブックス秋葉原店
傾向:戦いを終えてもなお、少女たちは高みを目指す。そして……


「THE IDOLM@STER」という作品は実に多岐にわたっており、ゲームを中心としてアニメ、コミック、そして音楽といった媒体において多くの作品を発表しています。本作はPlaystationPortable用ゲーム「THE IDOLM@STER SP」*1という、765プロダクションのアイドル3組の中からひと組を選び「アイドルアルティメイト」という最大のアイドルイベントの頂点を目指していくゲームを題材としており、その中の「ワンダリングスター」バージョンからわがままお嬢様・水瀬伊織と、ライバルである銀髪の姫・四条貴音が主人公として描かれています。

 アイドルにとっての最大最高の舞台「アイドルアルティメイト」で貴音との戦いを制した伊織は、貴音を自らの言いなりにすることを決めた。翌日765プロダクションに伊織に伴われて現れた貴音の姿は、事務員・音無小鳥と同じ制服。「伊織のマネージャーを務めることになった」という彼女に春香や小鳥といった面々は浮つくが、プロデューサーは「貴音は本当にこれでいいのか」と彼女の意志を確認する。それでも、貴音の意志は変わらない。「勝負は勝負ですから。それに――私には、もう帰る場所がないのです」と言って。納得行かないプロデューサーが叛意させようとしていたその時、部屋の外では伊織が立ち止まって二人の会話を聞いていた。

――「im@s punch2 月の裏で」より


「ワンダリングスター」、ひいては「THE IDOLM@STER SP」(以下アイマスSP)本編において、伊織と貴音のストーリーは王道的なライバル物語が最も色濃く描かれています。財閥の末娘という立場を封じ、ひたすらに自分の存在を世間に認めさせようとする伊織と、生まれながらにして背負わされた使命によって、自分の存在を世に知らしめなければいけない貴音の激突は、お互いを高め合っていくことでそれまで被っていた「外面」という仮面を取り去り、そして最高最大の舞台へと導いていく。熱血的な作品が好きな自分としてはこれ以上無く熱いストーリーで、アイマスという作品にハマった一因でした。

 あらすじの通り、本作2作は「ワンダリングスター」伊織編のアフターストーリーです。貴音は961プロダクションから放逐され、本作では伊織の手により765プロダクションにマネージャーとして移籍。一方、伊織は貴音を傍らに置きながらもアイドルとしての日々を過ごす。貴音はアイドルへの想いは封印しながらも、ゲーム本編の最終盤のように伊織に対する好意は隠そうともしません。かといって伊織はそれを邪険に扱うのではなく、照れながらもちゃんと受け止める。ゲーム本編での二人の成長がふたりの関係を良い意味で変えているのが、とても微笑ましいです。

 その関係の変化は留まることなく、貴音の心に湧き上がるアイドルとしての想いを焚きつけます。でも、今の貴音は伊織のマネージャー。その揺れ動く想いに、伊織は気付いて自ら行動に移そうとする。その行動というのがなんともわざとらしいものではありますが、貴音に対して精一杯の言葉をかけた伊織の姿はとても頼もしく、また伊織らしい精一杯の行動なんだなと感じるのです。ゲームの中で楓月さんが伊織のプロデュースをどう捉えていたかが伝わってくるかのような熱い場面でした。

 2作目「月うさぎの輪舞曲」は、貴音がアイドルに復帰してからのお話。「月の裏で」が伊織が貴音に対して向き合った物語ならば、本作は貴音が伊織に対して向き合った物語で、トップアイドルとしてひたすらに歩んでいくことで伊織が背負う重圧や罪の意識が描かれています。

 栄光に輝くアイドルがいれば、必然的に栄光の影へと身を落とすアイドルがいる。絶望して震える彼女の姿を目の当たりにした伊織は表情を曇らせるが、トップアイドルであり続けるためにはその姿から目を背けることしか出来なかった。一方、貴音は再びアイドルとしての日々を送り、以前関わったスタッフにも様変わりしたと言われるほどに柔らかい印象を与え、新たな一歩を踏み出していた。しかし、迎えに行った先で貴音は伊織が重圧に苦しむ姿を目にしてしまう……

――「im@s punch4 月うさぎの輪舞曲」より



 アイマスSPのゲーム本編ではライバル以外のCPUアイドルは文字情報とパラメーター・順位*2でしか存在しませんが、もし現実であれば負けて泣くことになるアイドルもいるわけです。その姿を目にした「負けられない」立場の伊織は重圧と罪の意識を背負い、かつて使命を背負っていた貴音がその伊織に向き合う……「月の裏で」とは反転した立場で、なおかつゲームで貴音が背負っていた「負けられない」という重圧を今度は伊織が背負うことになるとはと唸りました。立場の反転というのは両者の立場を再確認させるのに格好のシチュエーションなので、伊織によって再びアイドルになった貴音がどう向き合うかに注目していたわけですが、貴音の「本気」の表情に思わずゾクッとしてしまいました。

 楓月さんによる貴音と伊織の「本気」の対峙は、まさに本作の見所。イメージだとはわかっていながらも、輝きを取り戻した貴音の立ち振る舞いと覚悟を決めた伊織の立ち振る舞いはとても綺麗で、かつ凄絶な鋭さが伝わってきます。楓月さんが二人に対して本気で向き合った結果が、この二人の表情なのでしょうね。だからこそ、エピローグでの貴音と伊織、そして"少女"の表情が浸みるようにこちらへ伝わってくるのでしょう。

 ただいっしょにいるのではなく、向かい合って互いを知り合い、時にはぶつかり合ってでも互いを、更にはまわりまで巻き込んで高め合っていく。ひたすらにライバルとして向き合った伊織と貴音だからこそ生まれた、実に熱いストーリーでした。読み終わってから、何度も読み返してしまったほどです。

 なお、両作品が収録されていた同人誌は総集編として発行されていた「IM@S PUNCH-LINE!!」を含めて販売が完了しており、現在は楓月さんのPixivページにて全ページが公開されています。「THE IDOLM@STER」という作品を好きな方、中でも伊織と貴音のプロデューサーに読んで頂きたい作品です。




 ここでもう一作品、コミックマーケット84で頒布された「mobam@s chop2 月の裏で、踊る。」も紹介させて頂きます。本作はmobageによる携帯電話用ゲーム「THE IDOLM@STER シンデレラガールズ」を題材にし「ウサミン星」から来たという17歳*3のアイドル・安部菜々を主人公に据えて描かれています。

 小さい頃から魔法少女作品が好きで、成長しても変わらなかった少女(?)・安部菜々。オーディションには何度も落ちていながらも諦められなかったのは、ただひたすらに小さい頃の夢を抱いていたのと、テレビの中で水瀬伊織と四条貴音が演じる魔法少女作品が大好きで、自分もそうなりたかったから。やがてビールで酔った菜々は自らの世界「ウサミン星」を描き始める。様々な設定をノートに思いつくまま書き連ねていく中で、その星がある場所を「月の裏」としていた。

――「mobam@s chop2 月の裏で、踊る。」より


 自分自身、モバマスはキャラが多いこともあってコミックやCDでしか追っていないのですが、菜々の曲「メルヘンデビュー」は電波ソングで、また菜々自身もあくまで17歳であることを押し通そうとするという強烈な個性を持っているため強い印象を持っています。一見したらイロモノなアイドルにしか捉えられかねない彼女を、楓月さんは「夢を抱くアイドルの卵」として描いてるのが本作の特徴。ただ一途に夢を追い、夢に破れ、夢を掴もうとする。そのための武器は「17歳」と「ウサミン星人」。手にしたことで武器にもなれば、背負わなければいけないものもある。もうひとりのアイドルの卵・池袋晶葉の視点から菜々が掴んだものを描き、二人が向き合う……ここまで書くと伊織と貴音が向き合ったのと同じように見えますが、伊織と貴音が「トップアイドル」というステージにいたのに対して、菜々と晶葉がいるのは、まだ「始まり」の場所。まだ「憧れ」に「憧れ」ているのに過ぎません。

 菜々と晶葉の憧れはとても純粋で、とても無垢です。しかし、それを奥付からの3ページが無残に打ち砕きます。これを目にした瞬間「月の裏で」「月うさぎの輪舞曲」の物語が頭の中をぶわっと駆け巡っていきました。モバマスとアイマスをリンクさせるには、そして「月」と「ウサミン星」をリンクさせるにはこう描いてきたか、と。前者2作とは全く違うアプローチながら、根底に流れる熱さは本作でも健在でした。

 最後に楓月さんが気になることを書かれていましたが、もう待つしかないじゃないですか。本作がどういう物語になっていくかを見ていきたいと、切に願います。

*1 : 全3種発売され、それぞれ収録されているアイドルとライバルアイドルが異なっています。

*2 : アーケード版やXbox360版でのオンラインモードでは通信対戦が存在。アーケード版は2010年8月31日でオフラインへと移行しました。

*3 : 自称。

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