2016/03/15(火)第6回「創世記」(オリジナル)

タイトル:Let there be light - 創世記 -
サークル名:稲荷山 (Homepage)  作者:稲荷山こん太さん
ジャンル:創作  購入イベント:コミティア in 東京87(2009.2.15)
傾向:血で彩った絵での魂寄せ


 美術部に所属する日ノ瀬 創。彼は新入生歓迎展のためにラフを描いていたのだが、迷い線ばかりでスケッチブックはぐちゃぐちゃ。「百年に一人の天才」と呼ばれる父を持つことでまわりからも言われてしまうものの、彼は少し気にするだけで至ってマイペース。この日も上手く描けないまま家に帰ると「母」が玄関まで出迎えてくれて、家の奥からは来客者と父・悠一の声が。「描けない」「描いてくれ」と言い争う二人は創の玄関にやってくると、来客者・八木橋が創の持っているスケッチブックを見て「君が父親のかわりに描いてくれ」と言い放つ。驚く悠一を横目に「君には母を亡くした子の気持ちがわかるはずだ」という八木橋の言葉に戸惑う創……父・悠一は、かつて自らの血で絵を描くことによって亡き人の魂を呼び寄せることを生業としていたのだった。

 血の絵で魂寄せをするという、不思議な力を持つ父とその息子のお話。最初はオカルトチックなイメージがあったのですが、主人公・創は父の持つその力を理解していますし、父・悠一もその生業を捨て亡き妻――創の「母」のために自らの力を使い気ままに生活しているこということでどちらかというとライトな印象を受けました。むしろ悠一のもとに訪れる人のほうが切実で、実業家・八木橋は「息子を母親に会わせてやりたい」と生業を捨てた父だけでなく、絵が描けない創にもなりふり構わず降霊を依頼するという必死さ。かと思えばその当の息子・拓磨は「なかったことにしてくれ」と断ろうとするなど、親子を取り巻く状況のほうが混沌としている状態なのです。

 自らの意を貫き、亡き妻のために全ての力を注ぐことを決めた悠一と、それを受け入れた創。対して、息子ののために亡き妻をこの世に呼び寄せたい八木橋と、それを拒絶する拓磨。二組の対照的な家族は、まるで「光」と「闇」……絵が描けないままの創に、美術部の先輩が何気なく創世記の「光と闇」を引用して導いたやりとりは巧みで、創が八木橋家の闇に光を照らそうと奮闘する様は父譲りの意志の強さ、そして創にとっての「光」である母への強い愛が感じられました。

 繊細な画風が作品を彩り、フルカラーカバーの日ノ瀬一家の穏やかな姿だけではなく、カバー下にフルカラーで創の凛々しい姿が隠されているという"ダブルフルカラー"仕様で大変驚かされました。絵と物語、ともに隅々まで行き届いた作品です。
OK キャンセル 確認 その他