2016/04/07(木)第29回「It's ROTO World Adventure」(ドラゴンクエスト3)
タイトル:It's ROTO World Adventure (前編・後編)
サークル名:まつぼっくり・HM 作者:松葉ひろさん 発行:1994.6.20
ジャンル:ドラゴンクエスト 購入イベント:コミックマーケット51(1996.12.29)
傾向:コメディ&シリアス・ゲームのコミカライズ
同人誌におけるドラゴンクエストシリーズは、あまり規模としては大きく無いながらもある程度の規模をずっと維持している、人気もあり息も長いジャンルです。今回取り上げるこちらの本は、ドラクエ3の同人誌を出すサークルさんの中でも多く存在していた「コミカライズ」――いわゆるリプレイ本となります。
勇者・ルオルテが16歳になった朝から始まるこちらの作品は、丁寧にシナリオをたどったお話として構成されております。ただ、お話自体は程よくアレンジされていて「16歳の誕生日が勇者として定められた旅立ちの日」ではなく、あくまで「16歳の誕生日をきっかけとして冒険に出たい」というルオルテ自身の意志から始まる形になっているなど、かなり能動的になっていて何回もプレイした身でも楽しめる展開が用意されています。
コミカルなシーンもかなり多く、覚えたてのライデインを寝言で呟いてしまい自爆したり、バラモスのメダパニで武闘家が女戦士にセクハラしてぶん投げられたり、ふざけて妖精の笛を増えていたら敵が出てこなかったり(ゲーム内の効能通り)とゲーム内の設定が巧く使われていたり。オルテガを追うことを始めとしたシリアスな場面も丁寧に、かつルオルテの心情を中心に印象強く描いていることでそれぞれがゲーム時の想い出を喚起させてくれます。特に父・オルテガとの別れは原作以上に容赦なく、悲しさをより一層かき立てるものでした。
シンプルなグラフィック、かつ自由度の高いシナリオだったからこそ、残された大きな想像の余地。それらが充分に活かされた、前後編・合計226ページの素晴らしい物語でした。
なお、作者の松葉ひろさんは現在「心に星の輝きを」シリーズ(マッグガーデン・刊)や「Wチェンジ」(〃)といった作品で「松葉 博」さんとして活躍されています。