2016/04/24(日)第43回「LAST HOME」(オリジナル)
タイトル:「LAST HOME 1~4」「プラネタリウム」
サークル名:spica 作者:れんさん
ジャンル: 購入イベント:コミティアin東京(2009.5.5~2010.8.29)
傾向:かつて、人ではなかった人々の物語。
放課後、ボーッと外を眺めていたユキは付き合っていた女の子との約束をすっぽかしてしまい、愛想を尽かされる。それでもバイクが好きでバイトもして、高校に通って日々を送るユキ。それとは別の場所で、黒いワンピースを着た少女が裸足のまま雨の中に佇んでいた。視線の先には、鯨幕で囲まれた建物と涙に暮れる人々。通りがかった女性は少女の姿を見て保護し、小さな病院へと連れて行く。老医師は女性から「私の時と同じ」と聞き、また老医師も「ワシらと同じ状況の可能性がある」と言う。少女が二人に介抱されている最中、その病院にユキが帰ってきた。そんな彼らには「かつては猫だった」というひとつの共通点があった。
コミティアで本作を見かけた際、まず最初に表紙の色彩に惹かれました。今にも日が暮れそうな夕焼けの中で、空を見上げる少女・リン。裏表紙には少し離れつつも彼女を優しく見守るユキの姿が描かれていて、どんな物語なんだろうという興味が湧いたものです。
猫というのは人なつっこいのもいて、外に出ても帰ってきたりします。そして、家にいる人達に寄り添ったり、時には話しかけるように鳴いたりもする。そんな猫たちが、いったいどんな想いを抱いているのか。不本意ながらも人の姿になった元黒猫のリンは、その想いを伝えたくて手紙を書くのですが、人になったからといって既に亡くなっていたおじいさんに届ける術はなく、人がいなくなった家には非情な現実も訪れて……それでも、ユキを始めとした「かつては猫だった」人々が、まだ無垢なリンを支えようとします。
だけど、ユキもまだまだ高校生。リンを支えたり彼女の想いに直面することで、自分の心のざわめきに翻弄されたりすることもあります。猫から人間になれたことで、リンは抱いていたたくさんの想いをユキに吐露するけれども、受け止めきれなくてすれ違い、ふたりの距離が近づいたり、離れたりしていくのにはもどかしさすら覚えました。その過程でリンの「ある願い」も成就したものの、ユキが望んでいなかった残酷な形での成就という結果が切なかったです。
それでも、ユキとリンには「家族」がいる。ユキやリンよりも長い年月人間であり、猫であった彼らの支えによって、ユキはかつて自分が人間になった理由を振り返ります。そこにあったのは、ただ純粋な「助けたい」という想い。今も変わらないその想いがリンを突き動かして、今度はユキ自らがリンからの想いと彼女に対する想いに向き合おうとする姿は、とても力強いものでした。どういった答えをユキとリンが得たのか、詳しくは伏せさせて頂きますが、ふたりがともに歩く姿からは最初に第1巻の表紙を見たときと同じ優しさを感じました。
本編後の物語として「プラネタリウム」という小冊子があり、こちらは本編後にユキとリンがプラネタリウムに行くというほのぼのとしたお話。こちらの本には細工がしてあって、ユキがバイト先の店長からプラネタリウムの招待券をもらうというシーンがあるのですが、なんとそのページに実際に印刷されたプラネタリウムのチケットが同封されているのです。
最初読んだときは驚きましたが、遊び心があるのもいいなと笑ってしまいました。こういうサプライズギミックはとても好きなのです。*1
人間になれたからっていいことばかりじゃない。言葉が伝えられる分、傷つけてしまうことだってある。それでも、いっしょにいたい。人がいっしょにいることの難しさと素晴らしさが描かれた物語でした。