2016/04/25(月)第44回「あしたの行方」(オリジナル)

タイトル:あしたの行方
サークル名:Eight Million (Homepage) 作者:HIDEさん
ジャンル:創作(コメディ) 購入イベント:コミティアin東京88(2009.5.5)
傾向:繰り返されてしまう夏休み前々日。でも、それはひとりだけじゃなかった。


 目を覚ました直人がカレンダーを見てみると、何故か今日は7月15日。昨日「もうすぐ夏休みの北海道旅行に行ける! カニ食べ放題に行ける!」とワクワクしながらマジックで15日に×をつけたのに、書いたはずの×は無かった。おかしいと思いながらもいつものように学校で友人やクラスメイトであるお嬢と過ごしたけど、眠って目が覚めたらまた15日につけたはずの×は無く、再び全く同じことが繰り返される。夢にしてはさすがにおかしいと思いながら同じ日を繰り返していた直人だったが、たった一つの些細な違いを見出す。前回の15日にお嬢のスカートめくりをしたとき、白だったはずのパンツが黒に変わっていたから。

 同じ日を繰り返す物語だと群像劇アニメ「うる星やつら2 ビューティフルドリーマー」が思い起こされますが、本作は群像劇ではなく「直人」と「お嬢」という二人に視点が絞られています。直人は夏休みから始まる北海道旅行のカニ食べ放題を楽しみにしているという、ごくごく普通でちょっぴりイタズラ好きな一般家庭の男の子。対して金髪(地毛)なお嬢は高飛車で、その呼び名のとおりお嬢様という対称的なふたり。いつもじゃれ合いのように突っかかったりあしらったり、先ほどスカートめくりをしたりされたりと微笑ましい関係が、同じ日を繰り返すことでさらにクローズアップされていきます。

 その繰り返しを、とても深刻に受け止める直人。でもその理由というのが「カニはいつ食えるの!?」という一点にあるということに「そっちかい!」と思わず突っ込んでしまいました。そう、あくまでも本作はコメディで、この後お嬢を巻き込んでの繰り返しからの脱出についても「高い場所から飛ぶ」というアニメ版「時をかける少女」のパロディをお嬢の財力で行ってみたり、次々と無茶なことをやらかしてはふたりしてボロボロになったりと笑わせてくれます。それが、ふたりの真剣な行動からくるというのも尚更。そんな最中に生まれたお嬢の直人に対する心境の変化も、破天荒ながらもとても真剣に受け止められるのです。

 直人もお嬢も、ふたりとも必死。だけど、お嬢の必死な想いが「もっと直人と一緒にいたい」という逆の想いへと移り、それでは出られないとわかっていながらも、これまでの直人とのやりとりからわかってしまうだけに微笑ましく思えてしまうのです。そんな想いなどまったくお構いなしの直人の天然な行動には突っ込まざるをえないものの、かえってそれがお嬢の想いを増幅させ、そして自然な形で成就ざせてしまうという……いやはや、頬の緩みと「おいおい」という突っ込みが止まりません。だからといって決して直人が鈍いというわけではなく、この出来事の原因についてもコドモな直人なりにちゃんと向き合おうとしているのも面白い。まだコドモな直人と、コイゴコロが芽生え始めたお嬢だからこその物語なのでしょう。全てが終わったあとも相変わらずなところもあったり、また一歩踏み出したところもあったりして、これからを感じさせてくれるとても楽しい結末でした。

 本編ではあくまでも「直人とお嬢の物語」に焦点を当てていますが、おまけではクラスメイトの中にはお嬢のライバルがいたり、直人がお嬢もライバルの女の子のことも全然わかっていなかったりとこれまたお嬢は苦労しそうな様子。最初から最後まで笑えた中で、ただ笑えるだけではなく微笑ましかったりツッコミたくなったりとポジティブ方向での緩急が印象深い一作です。
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