2016/05/01(日)第49回【特集】「きりん本舗」の飲料・食品同人誌シリーズ


タイトル:「珈琲番付1996-1997」「紅茶番付」「トマジュー番付」
     「米国飲料番付」「ニアウォーターFAN倶楽部」「のり弁当FAN倶楽部」
サークル名:きりん本舗 作者:空腹親方、よろづ山親方、みどり山親方
ジャンル:飲料・食料 購入イベント:1990年代後半~2000年代初頭のコミックマーケット
傾向:日本で発売されたありとあらゆる缶飲料を飲んで番付化。さらには世界の飲料や食品まで。


 1996年、「きりん本舗」というサークルが誕生しました。
 初の同人誌は「珈琲番付」。缶コーヒー200本を二人の親方(御夫妻)が飲み、様々な部門に分類した上で番付していくという実に豪快な企画で、その後もコーラ80本を飲み比べした「コーラ番付」、「珈琲番付」からさらに219本飲み比べて追記した「珈琲番付1996-1997」、飲料を飛び出してコンビニ肉まんにまで食指を伸ばした「コンビニ肉まん番付」などを皮切りに様々な「番付」シリーズを発行されていました。

 その後も様々なシリーズを発行されていたのですが、2001年末に700本ほどを収録した「珈琲番付2001-2002」を最後に活動を停止。現在は「親方のソフトドリンクランド」というホームページにわずかに面影を残すのみとなっています。

 自分が初めてきりん本舗さんの同人誌に出会ったのは、1997年の夏コミ。評論サークルをほっつき歩いていたところ「コーラ番付PLUS」という同人誌を見かけ、どういうものかと手にとって読んでみたら「炭酸度」「黒度」「甘度」「カラメル度」「薬臭度」というグラフがそれぞれの缶の傍らに描かれていて、あまりの細かさに脱帽。その時に「全部飲んでるんですか!?」と聞いた時の「飲んでるんですよー」という空腹親方の姿を今でもよく覚えています。

「コーラ番付PLUS」を例にとってみると、まず飲む環境を整えるため、

・缶コーラは冷蔵庫で十分に冷やしておくこと。
・缶を開けたら1分以内に飲むこと。
・色と炭酸度を見るため、少量をコップに注ぐ。
・味比べは、空腹親方が缶から直接飲み、よろづ山親方がコップから飲む。


 と規定されており、その上でまず「激闘!コカコーラ対ペプシ」という2大コーラメーカーを対決させたコーナーが設けられ「国産レギュラー対決」「低カロリー対決」「色物対決」「ソールドアウト(終売)対決」「輸入物対決」と続いた上で、さらにこの2メーカー以外のコーラを「国産コーラ部門」「輸入コーラ(大手デパート)部門」「輸入コーラ(大手メーカー)部門」「輸入コーラ」に分類……とんでもなく設定されています。「珈琲番付」でも「レギュラー」「無糖」「微糖」「炭焼き」など、「紅茶番付」に至ってはミルクティーでも「レギュラー」「デラックス」と分類するなど、部門付けからしてかなりの徹底が成されています。

 収録されているデーターは「コーラ番付PLUS」の場合「製造元」「商品名」「製造国」「内容量」「JANコード」と先ほどのグラフ、そしてそれぞれの缶の写真に、親方からのコメントと3段階の評価が付記されている形です。それぞれの味の特徴が書かれていることで実際に飲んでみたくなり、購入出来るものを実際に飲んでみると「本当においしい」「ああ、これは……」となったりして、読んでも楽しいし飲んでも美味しいという一冊に仕上がってます。あくまでも参考書的な一冊ではありますが、本書をもとにいろんな飲み物を捜すというのは楽しかったです。

 また、番付ではなくあくまでも飲んだ印象のみを特集した「FAN倶楽部」シリーズもあり、その中には各弁当店やコンビニエンスストア、スーパーマーケットで販売されていたのり弁当を扱った「のり弁当FAN倶楽部」まで発行されていました。

 のり弁当といえば、ごはんにおかかをかけて海苔を載せ、その上に白身魚フライとちくわの磯辺揚げ、きんぴらごぼうを添えて終了……かと思いきや、各店舗で様々な特色があり、千切りキャベツがついていたり、ハンバーグ・チキンカツ・卵焼き・ナポリタン・ソーセージつきという豪華版もあったりという発見も。中にはメインおかずがさつまいもの天ぷらというものがあり、店舗の御意見BOXに投函したらおかずが同価格内で見直されたというエピソードもあったり(その前後のもの両方が収録されています)、楽しめつつもそれぞれほぼ500円以内で色々工夫してるんだなーと知ることが出来ました。

 本シリーズでなにより驚くのは、その収集力と行動力です。一般的には「その地元・近所の」「店や自販機にある」「スタンダードな商品」というのを目にすることが多いわけですが、地産缶コーヒーやトマトジュース、輸入物となるとほとんど目にすることはありません。中でも「珈琲番付」で連続して最後まで横綱になった岩手県のとある缶珈琲があるのですが、岩手に行くかアンテナショップに行くしかない*1というぐらい親方衆の地元でも出回ってないのに何故見つけたのかと驚いたものです。*2米国飲料番付でも、9日間の旅行期間に70本を収集するなどとてつもなくパワフル。最終的には「珈琲番付2001-2002」で700本を収録するまでに至るなど、その収集力と行動力には舌を巻きます。

 収集し、飲み比べをし、そして記事にして入稿する。文字面で見れば簡単に見えますが、実際にそれを個人・家庭で行動に移すとなると大変なことで。期間からすると、1996年1月から2001年12月の丸々6年間。短そうに見えても、とんでもない労力を注ぎ込んだのでしょう。空腹親方こと小金井博司氏も「All About」での最後のインタビューで「ここまで来ると個人レベルでの本の制作は難しくなってきていると思います」と答えており、個人レベルで出来ることの限界を痛感させられつつも、その限界までの挑戦が今なお記憶に残っている一因なのかなとも思いました。

 かつて飲料・食料系ジャンルを席巻したサークルさんとして、今回は「きりん本舗」さんを紹介させて頂きました。なお、前出の「All About」ではその番付の一端を垣間見ることが出来るので、興味をお持ちの方は是非御覧下さい。

*1 : 当時はまだAmazonが存在しない時期から黎明期に番付が作られていました

*2 : そして実際に飲んでみたら美味しい。今現在はAmazonで購入可能です。

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