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タイトル:-PRIMURA-
サークル名:ゆきあ屋 (Homepage) 作者:あやめぐむさん
ジャンル:創作(SF) 購入イベント:コミティア89(2009.8.23)
傾向:古代遺跡に残されていた記憶媒体に残る、少女の映像。
辺境の地・ヴァーリアで三千年前の高度都市「アグロネマンサ」の遺跡が発見され、発掘が開始してから半年。研究者・レギは最深部にまで辿り着いたが、固い扉に行く手を阻まれてしまう。仕方なくその一角にあった研究施設跡で調査をしていると、壁から一枚のディスクを発見する。レギがコンテンツを見ようとしたところ、17099ものファイルが記録されていた。戸惑いながらも手がかりのために再生しようとすると、モニターから一人の赤ん坊――「プリムラ」の映像が流れ始めた。
何故高度に発展し繁栄していた都市が滅んでしまったのか。そして、何故少女の記録が残っていたのか。最初は研究のためにただ映像を見ていたはずが、都市のあらましとともに彼女の姿に惹かれていく姿はまるで親馬鹿のようで、さらには立体映像で少女・プリムラの姿を再現しようとまで。同僚も呆れて「もういない」という現実を突きつけられてしまうわけですが、赤ん坊の頃から一ファイルずつ収録され、少しずつ成長していくプリムラのことを見守りたいという気持ちも伝わってきます。
突然訪れた「終わり」と、そこから始まる長い空白。レギが追おうとしたことは決して無駄ではなく、遠い遠い時間から渡されたバトンを受けるかのように結実していきます。「全てを見る」ことに意味があり、だからこそ任せることが出来るということなのでしょう。「"父"が遺したもの」、そして「"父"が受け継いだもの」。少なからず失ったものもあり、悲しさも込められた物語ではありますが、その出来事を経た末の最後の『彼ら』の笑顔には、こちらまで笑顔になるような暖かさがありました。
「見守ること」が鍵というのが意外ではありましたが、確かに人が生きていくのには誰かに見守ってもらうことが大切だと納得出来る物語でした。
タイトル:RE-TAKE 全年齢版 第壱集~第参集
サークル名:スタジオKIMIGABUCHI
作者:きみまるさん
ジャンル:新世紀エヴァンゲリオン 購入ショップ:メロンブックス大宮店(2009.08)
傾向:赤いLCLの海のほとりでアスカの首を絞めたシンジは、
気がついたらディラックの海から帰還した時まで時を遡っていた。
二次創作の中には「逆行」という、バッドエンドなどから記憶を保持したまま過去に遡り過去を再編していくというジャンルがあります。「新世紀エヴァンゲリオン」は「Air/まごころを、君に」における結末から逆行するという二次創作が小説・漫画問わず多く存在し、本作もまたその「逆行」を題材にした作品です。
赤い海のほとりでアスカの首を絞め、絶望の涙を流すシンジ。絶叫とともに意識は覚醒し、気付けば既に崩壊したはずのNERVの病院のベッドにいた。ディラックの海からサルベージされて間も無い時期で、シンジはシンクロテストでもアスカに負けながらも好調。だが、リツコは彼がアスカにわざと負けていること、そして目覚めた頃からレイと距離をとっていたことに気付いていた。そのシンジの脳裏には、赤い海で崩れた巨大なレイの壮絶な笑顔が焼き付いていた……
逆行作品の多くは過去に犯したミスを取り返すかのように違う行動をとっていく作品が多いですが、本作は最初に「予知夢」という形で「終末」の記憶を保持させながら物語が進んでいきます。わずかながら好転したような世界になったと感じながらも、過去に経験した記憶だという確証を持たなかったことによって、逆にさらなるすれ違いや悲劇を生んでしまう。さらには目の前に「かつて犯した罪」が自らにしか見えない形で現れ、シンジはだんだん追い込まれて心が再び壊れていくのです。
かつて掴めなかった幸せが今目の前にあれば、人は貪欲にそれを求めようとします。でも、掴めたからといって過去に犯した罪がゼロになるわけではない。掴んだことで、幸せが不幸せに反転する可能性だってある。それがたとえ『自分がかつていた未来』の出来事だとしても。それでも抗おうと何度も立ち上がるシンジと、何も知らなくとも、そして知っていたとしても各時期様々な形でシンジに接するアスカの絆には、弱さを孕みながらもとても懸命で惹きつけられるのです。幾度幾度もリフレインし、様々な形に分岐された世界の果てに辿り着いたアスカの言葉は、まさに誓いそのもの。そしてそれを受けたシンジも自ら歩き始めたことで、ふたりの「これから」を感じさせてくれました。
「断絶」していた物語の結末から更なるふたりの成長物語を産み出し、大きく展開させながらもゆっくりと、静かに帰結させていく。読後には思わず息をつき、再び最初から読み返したくなるほどでした。残念ながらきみまるさんは活動を停止されてしまいましたが、またいつか、何らかの形で新しいきみまるさんの物語を読むことが出来たらと思います。
タイトル:ある日の風景 - allegrissimo -
サークル名:混沌レディースタジオ 作者:DITさん&てぃーさん
ジャンル:THE IDOLM@STER 購入店:まんだらけ秋葉原店(2009.10)
傾向:人気番組に出演するやよいに迫るプレッシャー
アーケードに端を発し、Xbox360やPlayStationPortable、ニンテンドーDSといったゲーム機やドラマCD、ボーカルCD、アニメ、映画へと様々なメディア展開を見せるシリーズ「THE IDOLM@STER」。個性的な女の子たちの中から一人を選んでプロデュースしていくという本シリーズは同人においても人気を博していて、アーケードでの稼働から5年を迎える現在も活気あるジャンルの一つとなっています。本作はヒロインの一人である元気少女・高槻やよいを主役に据え、某お昼の長寿テレビ番組をモチーフにした「則田和義アワー 笑っていいかも!」に出演することになった彼女を取り巻く思惑や顛末を描いたお話です。
番組出演前日「お友達紹介」の電話を待っているやよいと、それを見守るプロデューサーと春香・小鳥。緊張でテンパっていたやよいだが、元気に受け答えした後は本当に出演するんだという高揚感に包まれていた。そのきっかけはやよいが前座としてコンサートに出演した元アイドルの歌手・横山紀久美との出会いで、やよいの素質を目にした紀久美は2ヶ月後に出演が決まり、Bランク以上の芸能人が出演することが暗黙の了解となっていた「いいかも」にやよいを呼ぼうと、社長ではなくプロデューサーに直接持ちかけてきた。それが意味するところをよく理解しているプロデューサーは慎重に事を進め、逆に765プロに所属するアイドルたちは祝福し、特に仲の良い伊織は我が事のように喜んでいた。だが番組出演前日、事務所に帰ってきた伊織はドア越しにプロデューサーと社長の言葉を耳にしてしまう。それはプロデューサーの独断を責める、社長の厳しい言葉だった……
原作でのテレビ出演といえば、目標の一つである「音楽番組」なのですが、現実においてはバラエティ番組の出演もアイドルのお仕事の一つ。原作と現実をミックスさせてキャラの魅力をさらに引き出したお話となっていて、一番の元気印である彼女をバラエティに抜擢したというのは納得させられる選択でありました。プロデューサーやオリジナルキャラであるアイドルの先輩・紀久美や高木社長、伊織たちの思惑に翻弄されてプレッシャーに押しつぶされそうになってしまいながらも、最後は「プロデューサーとの絆」を信じていつも通りの彼女を取り戻し、彼女らしく番組に参加していく姿に思わず笑みがこぼれました。きっかけが彼女とのゲーム中での代表格であるとあるコミュニケーションというのも粋だったと思います。
お話の最終的な舞台である「某有名昼帯番組」の描写もとても克明であり、司会者であるノリさん(=タ●さん)とやよいのやりとりが鮮明に思い浮かぶほど。本作ではそのさわりと舞台裏しか描かれていませんが、以前「よつばの。読書会5」で拝見した別冊「則田和義アワー 笑っていいかも! 増刊号」 ではそのテレフォンショッキング(らしきコーナー)の模様が丸々収録されていて、やよいとハイタッチしたり頭を撫でられたりしてやよいのパワーにどんどん呑まれていくノリさんの姿がとても微笑ましかったです。
以上までが2010年3月に書いたものですが、その後本作「allegrissimo」と、如月千早編である「a mezza voce」、描き下ろしの秋月律子編「overture(初演)」が収録された「総集編 Vol.1」、星井美希編「before relations」「modulation relations」「after relations」が収録された「総集編 Vol.2」が発行されました。
「relations」シリーズはXbox360版「THE IDOLM@STER」美希編を元にしたお話。どうして実力を秘めている美希が本気を出さずにマイペースでいるのか、そしてそれが招いてしまった過去の悲劇が描かれていて、混沌レディースタジオのお二人なりに解釈された「美希シナリオ」が展開されています。
"あの出来事"から美希のプロデュース代理をすることになった律子の苦悩や、ある2人の登場によって目まぐるしく変わっていく美希のまわりの環境が描かれ、悲しみ続けることを許されず、それでも少しずつ、少しずつ歩いて成長していく美希の姿に惹かれていきます。美希のそばに寄りそう姉の菜緒、プロデューサー不在からそばで支える律子、いっしょにトップを目指そうと手を繋いだプロデューサー、同僚アイドルの春香とあずさ、レッスントレーナー、作曲者……多くの人々に支えられ、時にはぶつかり合いながら出会った楽曲「relations」を、美希はいったいどう歌い、演じるのか。公式イラストやゲーム中でも存在する美希の特徴的な衣装の解釈も本作で成されていて、その意外な解釈にはただただ驚きました。「これまで」を描きつつ、そして「これから」を感じさせてくれるシリーズでした。
残念ながら混沌レディースタジオさんは解散してしまいましたが、アイドルマスターの印象深い同人誌を描かれたお二人でした。また「ある日の風景」はあずささん編として「隣に…」が「ねこまた屋」のねこまたなおみさんの作画によって2013年8月に発行されており、今回が前編ということでまた新たなシリーズが展開されていくようなので、改めて楽しみにさせていただきたいと思います。
タイトル:「凍りの掌1 シベリア抑留 記憶の底の青春」「凍りの掌2 シベリア抑留 記憶の底の青春」「凍りの掌3 シベリア抑留 記憶の底の青春」
サークル名:おざわ渡辺 作者:おざわゆきさん ジャンル:創作(歴史)
購入イベント:コミックマーケット76(2009.8.16) 同78(2010.8.15)
傾向:おざわ氏の父が体験したシベリア抑留の回想録
小学生の頃「おじいちゃん・おばあちゃんの戦争体験」という、その題のとおり祖父母が体験した太平洋戦争を作文にして提出する夏休みの宿題が出されました。小学3年生当時、自分はまだ存命だった祖父に戦争体験を聞くことにしたのですが、出てくるのは満州での平穏で楽しい生活のことばかり。あまり参考にはならないと思い、結局内地で疎開していた祖母の困窮生活を作文にして提出することに。どうしても祖父にそれを伝えづらく祖母に話したところ「ごめんね。おじいちゃんはシベリアに捕まっていたから」と謝られ「どうして捕まってたの?」と聞くと困ったように笑っていたのを、今でも鮮明に覚えています。
それから2年後に祖父は他界し、祖母も9年前に他界。その間に中学生、高校生になっていくうちに「シベリア抑留」という言葉を知り、軽く調べて「ああ、祖父もその一人だったんだ」と、あまりにも過酷な状況に「だから話したくなかったのかな」と思っていました。それからさらに年月は流れ、2009年7月に開催された「よつばの。読書会5」で様々な同人誌を読んでいたところ本作に出会い、祖父も体験したというシベリア抑留の回想記ということで読ませていただくことにしました。
おざわ氏が氏の父にシベリア抑留のことを取材しようとし、父が「思い出せんのよ……」と呟く場面から始まる物語は、父の学生時代から始まる。太平洋戦争末期になっていたその時代には仲間達が学徒出陣で出征していき、下宿先も空襲で被災してしまうという状況に。明日をも知れない日々の中で安息を求め過ごす中、帰宅した彼のもとに故郷から親がやってきて「出征だ」ということを告げられる。船と列車に揺られ辿り着いた場所は満州(当時)で、戦況の悪化により隊の仲間たちが次々と戦死していく。さらには日ソ中立条約が一方的に破棄され、ソ連軍が満州へと侵攻したことにより捕虜となったが、大きい船に乗せられ帰国できると喜んだのもつかの間、彼らが下ろされたのは未知の荒野・シベリアだった。
シンプルにデフォルメされたおざわ氏の画風は、淡々としながらもその事柄を大事に描いていて、読んでいるこちら側に突き刺さるような鋭さがあります。爆撃により燃えさかり人が逃げまどう東京での光景に、仲間が手榴弾にやられ、頭部を損傷し戦死する場面、シベリアでの過酷な大寒波と、その最中での凄惨な強制労働。次々と力尽きていき、シベリアの大地へと埋められていく仲間達。『ソ連』という地に抑留されたことによって、仲間に起きた思想の変化……語られた事柄を一つ一つ丁寧に構成していき、コマの中へと忠実に展開されていく物語は読んでいて思わず息をのんでしまうほどで、それとともに「どうして祖父は話してくれなかったのか」という二十年前の疑問が、おざわ氏の父の「思い出せんのよ……」という言葉とこの物語により氷解していくかのような思いに至りました。
あまりにも重く、あまりにも悲しい出来事。日本の敗戦から復興の最中に起きていたことを語り継ぐ作品として、また今では語る方が少なくなってしまった当時の回想録として注目したい作品です。なお、本作は現在補筆が施された上で一般流通されています。もし『シベリア抑留』という言葉に思うところがある方には、読んで頂きたい作品です。
タイトル:After Party
サークル名:MIX-ISM (HomePage) & さくらぢま(HomePage)
作者:犬威赤彦さん&バーニア800さん&マテバ牛乳さん(他ゲスト多数)
ジャンル:こみっくパーティー 購入イベント:サンシャインクリエイション45(2009.9.27)
傾向:パーティーはまだまだ続いていく。「こみっくパーティー」発売10周年記念本
1999年、美少女ゲームメーカー「Leaf」に新しく出来た東京開発室が制作した「こみっくパーティー」というソフトが発売されました。それまでLeafはWindowsで「雫」「痕」「To Heart」というビジュアルノベルシリーズや「WHITE ALBUM」といったアドベンチャーゲームを発売してきましたが、本作は育成型シミュレーション+アドベンチャーゲームという形態をとっており、しかもテーマが「同人誌制作」という非常に珍しい作品でした。ヒロインも一般人やサークル側(こだわり、流行り物、創作)、印刷所、スタッフ、コスプレイヤー、アイドル声優、隠しキャラとして読者と同人誌即売会に関わる人々というラインナップで、彼女たちとのやりとりや同人に纏わる様々な出来事が織り交ぜられたシナリオが人気を博しました。
それから10年経った2009年秋。ふらりと出かけた即売会で「ケースに入った同人誌」という珍しい本を見かけて手に取ってみると、そこに冠されていたのは「Let's celebrate the 10th anniversary.」の文字が。よく読んでみると電撃大王(メディアワークス・刊)で漫画版「こみパ」を描いていた犬威赤彦さんの「MIX-ISM」、そして長年こみパの同人誌を描かれてきたバーニア800さんとマテバ牛乳さんの「さくらぢま」が中心となって制作し、さらには百数十名ものこみパファンがゲストとして参加されているというとても濃密な同人誌だったのです。
224Pという大ボリュームのこの同人誌は「こみパ10周年」をテーマにした漫画やお祝いイラストなどで構成され、キャラクターそれぞれの「10年」経過を読むことが出来たり、現在様々な現場で活躍されている方々のこみパへの思い入れなどがあふれていたりとパワフルさに溢れています。また、作りも大変凝っていて、上記の画像では瑞希・大志・和樹・詠美・由宇の姿が写されたカラー写真のようになっていますが、前出の「ケース」を外すと左のように、こみパ主人公・友人・ヒロインが朝焼けのビッグサイト前で大集合という絵柄に。思わずこれにはスペース前で「やられた!」と声を出してしまいそうになったほどです。
漫画はというと「さくらぢま」のお二人が「10年後も相変わらずだけど、成長したところも見せたりしている面々」というお話で、犬威さんが「10年経って見失いかけていたものを思い出す」というお話。前者の舞台は〆切当日 で、このゲーム特有の「修羅場モード」でひっちゃかめっちゃかになってる面々を描いていて、相変わらずマイペースに周りを巻き込む大志に、いざとなればとにかく突っ走る由宇。おバカだけど腕を思いっきり振るう詠美に、ゲーム時とは違い気丈に振る舞えるように成長した彩と、ヒロイン同士のやりとりも多く賑やかだという「こみパ」らしい魅力に溢れています。
後者の作品は、本編から10年が経って「漫画への情熱」を忘れかけていた和樹が、居眠り中に妻・瑞希が起こそうと振るった釘バットによって1999年のこみパ会場に飛ばされてしまうというお話。10年前のこみパ会場にいたのはまさにその当時のヒロインたちで、やりとりはその当時と変わらないのですが、10年後から来た和樹にとってはそのやりとりが「原点」そのもの。目覚める直前、最後に現れた人物も和樹にとって同人誌――漫画に触れることになった「原点」。そして、プレイした側にとっても彼・彼女たちの姿は「こみパ」という作品の「原点」。読んでいるうちに、当時のことやゲーム中の出来事が鮮明に思い出されてきました。
百数十人にも及ぶゲストの方々のこみパへの想いも強く、漫画にイラストに写真に文章とこみパへの情熱がギッシリ。熱狂冷めやらぬパーティーのごとき熱さが、この本からひしひしと感じられました。
タイトル:60cmトライアングルライフ
サークル名:原色果実図録(現・サボテイ) (Homepage) 作者:坂井サチさん
ジャンル:創作 購入イベント:コミティア in 東京87(2009.2.15)
傾向:身長差60cmのラブコメ4コマ
ガタイが大きく無口な少年・宍戸と、彼の視界に入らないほどちんまりとした少女・久里浜こまり。宍戸はこまりのことを気に掛けているけれども、こまりは逆にそんな宍戸の背にコンプレックスを持っていて彼のことを宿敵と呼び反発していた。そんな差がありすぎる二人の、ちょっぴり激しくてとってもにぎやかな日々のお話。
ページを開いてみると、いきなり1コマ目からこまりが見上げる姿が。さらに裏表紙にはちんまりとした彼女の姿と、肩から上がフレームアウトしている宍戸の姿……このとおり、とってもでっかい少年ととっても小さい少女という凸凹な二人が恋仲になっていくお話が描かれた4コママンガ。学園ラブコメというのは定番のお話ではありますが、徹底的された身長差と朴訥&やんちゃという正反対っぷりが佳きアクセントになっていてとても微笑ましいのです。
あらすじにも書いてあるように、想いも全くの正反対。それがこまりがぶつかっていき、宍戸が(文字通り)受け止めていくことにより良い方向にも悪い方向にも作用していって「どうしてこまりが宍戸に反発するのか」「どうして宍戸がこまりのことを気にするのか」ということが少しずつ二人の中で思い出され、明らかになっていきます。こまりの友達の女の子や、こまりをさらにミニマムにした弟・てまりも彼らの仲立ちになって少しずつ正反対だった距離が近づいていくように……この過程がとてもいじらしく、二人の思いが通じ合ったシーンでは思わずこちらまで笑顔になるほど。宍戸のストレートすぎる言葉があまりにも甘いのですよ!
その後のお話もあり、さらに進展していく彼らの姿が……とは言っても、やっぱり身長差だけは変わることはなく。それでも二人は幸せそうで、最後の最後にいつもしかめ面だったこまりがようやく見せてくれる柔らかい表情はその象徴だなと思いました。全4話と短めではありますが、その分4コマとしてよくまとまっていたお話だと思います。
タイトル:「AQUAmariners」「AQUAmariners Due」
サークル名:CO-MIX (Homepage) 作者:しのざきあきらさん
ジャンル:ARIA 購入ショップ:メロンブックス大宮店(2009.3.2)
傾向:天野こずえ作品キャラの共演
6年以上にわたるロングランとなり、透明感のある世界観で人気を博した天野こずえさんの作品「ARIA」。同人誌なども数多く発行され、今なお活気のあるジャンルのひとつです。その中で今回ご紹介させていただく「AQUAmariners」シリーズは「ARIA」で主に描かれていた「日常」に、天野さんがかつて描かれた作品のキャラが登場してARIAの登場人物たちと交流を深めていくというとてもにぎやかなお話です。
灯里から「ひまわり広場にあるポストに手紙を投函すると、好きな人との想いや願いが叶う」という噂を聞いた藍華。話につられて広場に行ってみると、そこには「"魔法の"」という札が下げられた怪しげなポストが。戸惑っていた藍華だったが、突然後ろから声をかけられたはずみでそのポストに手紙を投函してしまう。混乱しつつもその声のほうを振り向くと、ひまわりの花を抱えた女性が何故か藍華が投函したはずの手紙を手にしていた。
1話目「AQUAmariners01:魔法のポスト」では、短編集第2巻「魔法の郵便屋さん」からヒロイン・綾乃が登場。藍華がアルに出そうとしていた手紙を届ける役目で、底抜けの明るさは原作通り。元々ARIAという作品では少し不思議な出来事が起こるということもあり、綾乃が持つ"魔法"も親和性があるなと感じたのですが、藍華のアルへの想いを手助けするという構成に「こうきたか!」と思わず膝を打つ想いでした。さらに「Due」の1話目「AQUAmariners04:いしのせいれい」では初期の代表作「浪漫倶楽部」より石の精霊・コロンが登場。こちらもARIAの原作エピソードを活かしたお話で、ただのゲストキャラでは終わらせず、きちんと彼女たちが出てくる必然性が用意されているというのが素晴らしいところ。灯里とアリア社長、そしてコロンが一緒に川の字になって寝てるシーンは微笑ましくてたまらないぐらいです。
天野作品キャラとの共演以外にも、アリシアとグランマが灯里を見守るお話や、グランマの畑耕しを灯里とアイ、アリシアが手伝いに行くお話など、ほのぼのなお話が盛りだくさん。中でも果物屋さんのお手伝いをする灯里のお話は、アリスや原作でのゲストキャラ(「浪漫倶楽部」の火鳥と月夜の未来の姿)も交えた、彼女たちらしさいっぱいの物語でした。みずみずしい季節感があふれる表紙もとても綺麗で、しのざきさんの「ARIA」という作品への愛情をぎゅっと詰め込んだ素晴らしい作品。2013年現在も続刊しており、灯里たちだけではなくアイちゃんメインのお話なども描かれています。
タイトル:INTO THE LEGEND (I~V)
サークル名:メルキド維震軍 作者:ソマさん
ジャンル:FCゲーム(ドラゴンクエストI~III) 購入イベント:コミックマーケット75(2008.12.29)~77(2009.12.29)
傾向:コメディ&シリアス・親から子へ継がれる伝説
2008年11月に開催された「よつばの。読書会4th」 に参加した際、主催の国里コクリさん(「よつばのはて。」管理人) が持ち込まれた同人誌の中にこちらの本があり、元々昔からドラゴンクエストの同人誌をよく読んでいた自分は喜びつつ手に取らせていただきました。
「親」であるこういちから「子」であるゆうじへの誕生日プレゼントとして渡されたのは、1983年に発売された「ファミリーコンピューター」と1986年に発売されたファミコンのカセット「ドラゴンクエスト」。初めてゲーム機を与えられた彼が体験するのは、冒険と成長の旅……というのが、この作品のさわりの部分。「冒険と成長の旅」というのは決して大げさではなく、実際にゆうじがゲームの中の世界に入り込み体験していく形でお話が進行していくという形で「ゲームに入れ込む」という子供の頃にありがちな行為を、そのまま「ゲーム世界に入れ込む」という「旅」に仕立ててあるのです。
日常と現実の結びつけ方が非常に巧みで「DQ3をクリアした親から子へDQ1を渡す」というのは「DQ3の勇者がDQ1の子孫」というロトシリーズの構成とリンクしていますし、ゲームの世界にずっと入り込んでいるわけではなく、家族に呼ばれれば現実の生活に戻るという形になっていて「物語への没頭」→「現実への帰還」という、やはり子供の頃に体験したことが巧く描いてあります。
特筆すべきは、「II」以降ゆうじがプレイすることになる「DQ3」での展開。発売当時、まさに少年少女を始めとしたゲーマーを驚愕させた「3からへの物語のリンク」が表現されたり、ショッキングであるはずの「冒険の書」の消滅を逆に「別れ」としてドラマチックに描いていたりと子の世代、親の世代両方にわたって意外性を込めつつも丁寧に描いてあるのが印象深かったです。
古き想い出を喚起しつつも、新しき形で物語を魅せていく。ドラゴンクエスト発売20周年記念として制作されたこの作品は、隅々まで原作への想いが込められた素晴らしい作品でした。
タイトル:KANONE
サークル名:かのね屋 (Homepage) 作者:作画・さとPONさん シナリオ・Dさん
ジャンル:Kanon & ONE - 輝く季節へ - 購入イベント:コミックマーケット63(2002.12.30)
傾向:同人誌、及びアンソロジーの総集編
1999年6月、Keyより美少女恋愛ゲーム「Kanon」が発売。物語性の高さもあって各所で話題を呼び、直後のコミックマーケット56では島中に配置されていたKanon系サークルが軒並み混雑したことで動脈硬化状態になったほどの爆発的な人気を博しました。その後も「Eternal Kanon」や「Bright Season」「杜の奇跡」といったオンリーイベントの他、キャラごとのオンリーイベントまで開かれるほどのブームが巻き起こりました。
本作は「かのね屋」のお二人が「Kanon」「ONE」で描かれた同人誌、及びアンソロジー掲載作品の総集編で、274Pという大ボリューム、かつ各ヒロインの物語を網羅した充実の作品となっております。栞シナリオ後にほのめかされたあゆの存在が描かれた「Last Wish」にあゆシナリオ後、秋子さんからあゆの目覚めのことを聞いた祐一がもう一度再会しに行く「Last Wish - Tukimiya Ayu -」、舞シナリオでの魔物との最後の戦いとそれからのことを描いた「月影の檻」に、真琴シナリオでの冬の別れと春の再会を描いた「Tinkle Bell」、そして名雪の誕生日に改めて雪うさぎを贈ることとなる「雪という名の想い」。他にも栞やあゆの短編一編ずつに「ONE」から浩平が澪のもとに戻った後、今度はちゃんと澪の演劇の出番を見送る「だいすきなひと」、さらにはギャグサイドとしてデ・●・キャラットと融合させた「か・の・キャラット&お・ね・アイスちゃん」にブラック要素を織り交ぜた4コマ「好きとか嫌いとか」と、非常に盛りだくさんな内容となっております。
中でも目を惹くのが「Tinkle Bell」。自分も真琴本を作るなど真琴シナリオにハマッていたのもありますが、物語の終盤において(ネタバレ反転)真琴が祐一の腕の中で消えてしまう原作の場面が丁寧に描かれていたり、美汐が短いながらも愛おしかった真琴との日々を想い、二人して涙してしまうシーン があったりと、真琴シナリオにおいてぼやかされていた解釈がしっかりと描かれているのがとても嬉しかったです。また、原作のエンディングではぼやかされていた真琴が戻ってきたかどうかという結末は明るい解釈で描かれており、祐一との結婚式を思い出した 真琴がベールを握りしめて涙していた姿がとても印象深いものとなっていました。やっぱり、真琴と祐一はこうでないと……と、うんうん頷きながら思ったり。
優しさに満ちあふれたDさんの物語に、細やかで丁寧なさとPONさんの作画が合わさり、読んでいるこちらまで思わず笑顔になってしまうような心温まる作品の数々……かと思いきや、終盤のギャグサイドにはみさき先輩と香里がぷちこ化してたり、非常にダークに見下げてくる香里がいたり、えここのコスプレをしたシュン(男)に浩平が幕ノ内コンボを炸裂させたりと、緩急自在の気が抜けない構成。先ほどの笑いとはまた違った笑いがこみ上げてくる感じ。今でも本棚から取り出し、よく読みふけるお気に入りの一冊です。
タイトル:Leveler
サークル名:eggoil (Homepage) 作者:杉乃さん
ジャンル:創作 購入イベント:COMITIA in 東京88(2009.5.5)
傾向:シリアス・旅ファンタジー
緑の髪を持つ歌い手の少女・エルヴェイラ。彼女の歌は人を惹きつけ、この日歌っていた酒場でも多くの人から喝采を浴びていた。その帰り、満月の夜道を歩いていると何かの目印のような青い光が。地面に浮かぶそれを辿り路地へ入ると、そこには人を襲い傷つける"蒼蟲"と、その傷ついた体を"蒼い光"で癒している男の姿があった。その面影は、遙か昔に出会った大切な人に似通ったもの……気になったエルヴェイラは、街の人の警告も聞かずに彼を追うことにした。
歌姫・エルヴェイラと、"蒼い光"を操る男性・ハンスの旅の物語。エルヴェイラは長い旅路を歌い歩き、ハンスはその旅路を追い旅を続け、その足跡が交じり合った時、二人の物語が始まります。「ハンスとエルヴェイラの出会い」「数少ない"蒼い光"の操り手との交流」「拗れていた昔なじみとの再会」「エルヴェイラが出会った作家との話」という、過去に頒布された4冊をひとまとめにした総集編で、ほのぼのとした空気もあればシリアス、かつダークな雰囲気もありと様々な彼らの旅道中を楽しむことが出来ます。淡い色調の表紙やシャープに描かれた本文が美しく、幻想的な風合いを醸し出しているのもまた一興。
2013年現在は本編全10巻が完結しており、プロローグや番外編が各種即売会で頒布されています。また「Leveler 1」「Leveler 2」「Leveler 3」として全3巻にまとめられた総集編が頒布されており、COMIC ZINさんにおいて委託販売されています。この辺りの詳細は、是非HPのほうを御覧頂ければと。
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