2016/04/09(土)第31回「one's will」(ワイルドアームズ)

タイトル:one's will
サークル名:EVER BLUE (Homepage)  作者:矢凪ゆとさん
ジャンル:WILD ARMS Altercode:F  購入イベント:コミックマーケット75(2008.12.29)
傾向:シリアス・ロディの生誕秘話イベント補完


 Playstation1のオリジナルRPGとして発売された「WILD ARMS」。ファンタジーに西部劇テイストがミックスされた世界観やストーリー、なるけみちこ氏などによる美麗な音楽や初めてプレイする者の度肝を抜いたオープニングアニメーションなどで人気を博し、現在はPlaystation2用の「5th Vanguard」までシリーズが展開されています。今回ご紹介する同人誌はその初代作品のリファイン版ともいえる「Altercode:F」から、主人公の一人であるロディの生誕に関するシーンの補完話です。

 未プレイの方のためにも大きなネタバレは致しませんが、ロディは常人とは異なる能力を持ち、中盤の重要イベントで自らが傷つくことによってその正体を仲間たちだけでなく、何も知らなかったロディ自身も思い知らされることになり、自らの精神の中に閉じこもってしまいます。その正体を見てしまった仲間の一人・セシリアは思うままの感情をこぼし、もう一人の仲間・ザックに咎められ自らの行いに気付く――といった場面からお話は始まり、セシリアのロディへの贖罪や、ザックの仲間としてのロディへの信頼、そして本編イベントの要となっていた"自らの中に閉じこもり、彷徨うロディ"という、それぞれの視点から見た"仲間たち"への想いが一つ一つ描かれています。

 セシリアは混乱して大切な仲間を遠ざけてしまったことを悔やみ、ザックはそれでも今までのロディとの日々を振り返り仲間を信じ、ロディは絶望にありながらも仲間たちの呼びかけに応えようとする……原作の特色である"仲間たちの結束の強さ"という要素をよく活かし、最終的にその原因である「異能力」をも信頼へと変えていくという展開には、原作をプレイした当時に感じていた間隙が埋まっていくかのような思いでした。

 ラフでありながら、隅々まで陰影などが行き届いた画風も原作の雰囲気を感じられるもの。プレイしてから長い月日が経ちますが、プレイした当時の記憶が思い起こされる佳き作品でした。

2016/04/08(金)第30回「Railway Walker」(交通・鉄道)

タイトル:Railway Walker 9
サークル名:放射性同位体  作者:こときあやみさん
ジャンル:交通(鉄道)  購入イベント:コミックマーケット75(2008.12.30)
傾向:鉄道廃線紀行&廃線を舞台にした漫画


 同人誌界隈における鉄道ジャンルは非常に息が長く、既存鉄道の歴史の掘り下げや解説をしている本、仮想鉄道や擬人化、果てには記念切符の販売*1なども行われていたりと実にバラエティ豊か。今回取り上げさせていただくのは「廃線」ジャンルから、紀行+漫画という二つの視点から廃線を取り上げている「Railway Walker」シリーズです。

 こときさんの廃線本10冊目となる今回は、全国各地廃線巡りとライトテイストな廃線漫画が主な内容。廃線地巡りは旧・JR大社線(島根県)、旧・名古屋鉄道揖斐線・谷汲線(岐阜県)、旧・国鉄広尾線(北海道)、旧・国鉄興浜南線(〃)、旧・国鉄興浜北線(〃)、旧・国鉄大隅線(鹿児島県)、旧・JR山野線(熊本県・鹿児島県)、旧・鹿島鉄道(茨城県)、旧・高千穂鉄道(宮崎県)、旧・国鉄白糠線(北海道)、旧・国鉄渚滑線(北海道)と全国津々浦々。廃線跡とともに廃駅跡や旧沿線の風景写真に、路線の解説やこときさんの所感などが書き添えられています。中でも高千穂鉄道は洪水被害による休止から一年後に撮影されたもので、流木が絡まる鉄橋や「すべての営業を中止しています」という張り紙の写真はとても生々しく、本文にもあるように突然終わりを迎えさせられたという無念ささえ感じられました。

 漫画のほうはというと、いつもの廃線をテーマにした重めの漫画とはまた趣を異とした「家にいながら廃線跡を体験させられてしまう」少年のお話。シリーズ各作品で廃線の精霊といった形で出てくる少女・鈴音が、今回は「ドアを開けたらそこはいろんな廃線跡」といういたずらを仕掛けます。客間のドアを開ければ線路が撤去されたホームに連れて行かれるわ、トイレを開ければ「使用停止」と封鎖されている場所へと出される始末。しかし「忘れられて、人知れず埋もれていくのは悔しいから」という鈴音の心情は前出の廃線地巡りを読んだ後だととても重いものでした。

 20年以上前に廃線した路線もあれば、つい1年前(発行当時)に廃線した路線もあり、放置され荒れてしまっている場所もあれば、大切に保存されて時をとどめている場所もあるという風に、廃線をめぐる様々な光景や想いを読むことができるこの一冊。2013年現在も続刊しており、様々な地方の廃線を舞台に現状や物語が描かれています。

*1 : しかも現在使用されている磁気つき切符ではなく、旧来使用されていた硬券。

2016/04/07(木)第29回「It's ROTO World Adventure」(ドラゴンクエスト3)


タイトル:It's ROTO World Adventure (前編・後編)
サークル名:まつぼっくり・HM  作者:松葉ひろさん 発行:1994.6.20
ジャンル:ドラゴンクエスト  購入イベント:コミックマーケット51(1996.12.29)
傾向:コメディ&シリアス・ゲームのコミカライズ


 同人誌におけるドラゴンクエストシリーズは、あまり規模としては大きく無いながらもある程度の規模をずっと維持している、人気もあり息も長いジャンルです。今回取り上げるこちらの本は、ドラクエ3の同人誌を出すサークルさんの中でも多く存在していた「コミカライズ」――いわゆるリプレイ本となります。

 勇者・ルオルテが16歳になった朝から始まるこちらの作品は、丁寧にシナリオをたどったお話として構成されております。ただ、お話自体は程よくアレンジされていて「16歳の誕生日が勇者として定められた旅立ちの日」ではなく、あくまで「16歳の誕生日をきっかけとして冒険に出たい」というルオルテ自身の意志から始まる形になっているなど、かなり能動的になっていて何回もプレイした身でも楽しめる展開が用意されています。

 コミカルなシーンもかなり多く、覚えたてのライデインを寝言で呟いてしまい自爆したり、バラモスのメダパニで武闘家が女戦士にセクハラしてぶん投げられたり、ふざけて妖精の笛を増えていたら敵が出てこなかったり(ゲーム内の効能通り)とゲーム内の設定が巧く使われていたり。オルテガを追うことを始めとしたシリアスな場面も丁寧に、かつルオルテの心情を中心に印象強く描いていることでそれぞれがゲーム時の想い出を喚起させてくれます。特に父・オルテガとの別れは原作以上に容赦なく、悲しさをより一層かき立てるものでした。

 シンプルなグラフィック、かつ自由度の高いシナリオだったからこそ、残された大きな想像の余地。それらが充分に活かされた、前後編・合計226ページの素晴らしい物語でした。

 なお、作者の松葉ひろさんは現在「心に星の輝きを」シリーズ(マッグガーデン・刊)や「Wチェンジ」(〃)といった作品で「松葉 博」さんとして活躍されています。

2016/04/06(水)第28回「きょうもハレ晴レ!」(涼宮ハルヒの憂鬱)


タイトル:「きょうもハレ晴レ! PERFECT!」
サークル名:tp! (Homepage) 作者:広瀬まどかさん ジャンル:涼宮ハルヒの憂鬱
購入:メロンブックス横浜店(2008.10.29) コミックマーケット78(2010.8.15)
傾向:キョン以外3頭身に濃縮されたSOS団の日々


 トイレのしつけがなってない半猫半人型宇宙人。何故か頭から直にウサギの耳が生えている未来人。放置プレイされたり撃たれたりすることに悦びを感じる超能力者。そして、神人どころか自らが巨大化するなどやりたい放題な無自覚神様……3頭身になったSOS団の面々ですが、かわいさとは裏腹にその性格や能力や変態度(古泉に限る)がギュッと濃縮されてさらにパワフルになって大暴れ。広瀬まどかさんが執筆された「きょうもハレ晴レ!」シリーズを一冊にまとめたのが「きょうもハレ晴レ! PERFECT!」「きょうもハレ晴レ!EX COMPLETE」です。

 基本的に原作小説の時間軸に沿う形で進行してはいるのですが、彼らの手にかかれば本筋からの逸脱なんてお手の物。「憂鬱」編の冒頭では、ハルヒは「この中に宇宙人、未来人、超能力者がいたらあたしの所に来なさい! その場で死刑!」と言い放ち「本気なのか?」と話しかけたキョンをロックオンしてくるわ、みくるは最初から目からビームを放ってキョンの顔面をモザイク処理させざるを得なくするわ、長門はキョンを気に入ると背中に飛び乗っておもらしするわ……あ、それと古泉は放置されるわと、キョンの心労は倍増どころか突き抜け状態。確かに可愛らしいのですが、あまりにもフリーダムさにキョンが不憫になってしまうのです。

 サブキャラたちもさらに突き抜けていて、鶴屋さんは小悪魔チックにハルヒを焚きつけるし、朝倉は幽霊になって「Nice boat.」を連呼して彷徨ってるし、喜緑さんは赤ちゃん化して生徒会長はその保護者と化している始末。中でも極めつけはキョンの妹で「孤島症候群」でバッグに入ってたのをそのままに、バッグの中から髪だけぴょこんと出して自律して動いているという不思議物体に。シャミセンを吸い込むわハサミを自動的に動かすわとホラー映画状態で不気味なインパクトがありました。

 と、ギャグ方面のネタも確かに多いのですが、原作を本作のハルヒ・長門・みくるたちなりにアレンジしたり、オリジナルで構成されたシリアスなお話も収録されていて、ギャグパートをさらに印象深いものにさせています。キョンがちょっぴり素直になっているのもいいアクセントになっていて、巻末にあるオリジナル話では「破綻→再構築」というプロセスが、彼のそんな気持ちとハルヒ・長門・みくるの気持ちが結実していて佳きお話に仕上がっていました。やっぱり、みんな笑顔が一番なのですよ笑顔といえば、古泉も確かに笑顔が多いのですが……その変態っぷりが幕間や個別ストーリーで遺憾なく発揮されております。

2016/04/05(火)第27回「おしかけ形四畳半 魔女の構造と解析」(オリジナルドラマCD)


タイトル:おしかけ形四畳半 魔女の構造と解析
サークル名:とろいめらい (Homepage) ジャンル:同人音楽(同人ドラマCD)
購入イベント:同人誌市場(2008.10.19) [埼玉県草加市・アコスホール]
傾向:コメディ・規格外魔法少女 キャスト:脚注参照*1


 今回紹介するのは同人ドラマCD。サークル「とろいめらい」さんが制作されたオリジナルドラマCD「おしかけ形四畳半」シリーズの第1作「魔女の構造と解析」です。「とろいめらい」さんは「Kanon」や「AIR」「銀色」「えとせとら」*2などのドラマCDを制作されていたのですが、近年は休眠。2008年秋に制作されたこの作品が、復活第一弾の作品となるそうです。そのあらすじはというと、以下のとおり。

 ――17年前、金星付近のブラックホールから飛来してきた「魔法少女」。現代において架空の存在だった彼女たちが現実に現れたことで、様々な常識の多くが覆されていく。
 その魔法少女が持ち込んだ未知のウイルスにより父親を亡くした少年・高谷透はその経歴もあって魔法少女と関わりを持とうとせず、努めて平凡な日々を送っていた。だが、そんな彼の想いは川にぷかぷか浮かんでいた魔法少女・ピオとの出会いによってすべてひっくり返されてしまう。

 落ちモノ押しかけモノの王道を突っ走っている作品といった感じですが、トンデモ要素を持った魔法少女がヒロインということでさらに破天荒さに磨きがかかったストーリーとなっています。ちょっと前段が長めなのが気になりましたが、世界観の説明ということで致し方ないところ。後半から始まるピオと透との掛け合いから一気に畳み込まれていきます。

 そのピオは前出のとおり魔法少女……とはいっても(以下ネタバレ反転)「河におぼれ、人工呼吸でゲ●を吐く(とれたてピチピチの魚付き)」「ラーメンをすすったまましゃべって背脂を飛び散らす」「魔法界で仕入れたツンデレ知識をテンプレ通りで自慢げに演じて透に『国辱』と言い放たれる」「貪るように主人公にキスをする(というか吸引している)魔法少女」というとんでもないヒロイン。出会ってすぐの透にも平気で「馬鹿なのか?」「ぶっ飛ばすぞ」とまで言われる始末です。

 他にも、魔女ファンな友人・武本やピオのお付き・オリビー大佐、お隣さんの萌やマイペース教師な陽子など個性豊かなキャラが満載。「魔女の傾向と対策」から始まる続編では新たなヒロイン魔法少女・トアを始めとした人々の繋がりが続々と広がっていって、2013年現在も続刊が発行されています。1000円で72分堪能できるというお値段設定もいい感じ。公式HPでも試聴できますし、気軽に聴ける作品ということでにぎやかなオーディオドラマが好きな人に十分オススメできる作品です。

*1 : ピオ・アンダソン:岩村琴美 高谷 透:榊 利希矢 オリビー大佐:大畑伸太郎
黒沢 萌:さわたり由衣 武本 茂:高橋あきお 長田陽子:やなせなつみ 原田義博:はらさわ 晃綺
名古木裕也:古川賢二 オペレーター:綿世れん 職員:田畑利徳 アディール:籐野らん
トア:岡嶋 妙 エルフリーデ:綾川りの

*2 : なかざき冬氏原作で月刊少年マガジンに掲載されていた作品。

2016/04/04(月)第26回「Neo Utopia」(藤子不二雄作品評論・解説)

タイトル:Neo Utopia 46
サークル名:ネオ・ユートピア  作者:(代表)蝶野光秋さん
ジャンル:藤子不二雄作品・評論  購入イベント:コミックマーケット75(2008.12.29)
傾向:会員制サークル会報


 80年代から90年代にかけて、雑誌上で同好の士を集めて会員制のサークルを作り、定期的・不定期的に会員からの投稿をもとに作られた会報を送るというやりとりが流行りました。インターネットやメールなどの普及により今では数少ないものになってしまいましたが、今回ご紹介する「Neo Utopia」は86年より活動を開始し、各種イベントを行う他2009年現在47冊の会報を発行しているという老舗の会員制サークルさん。会員の方だけでなく、コミケを始めとした即売会で一般に向けても頒布しているという会報は、イベントリポートの他、藤子作品に関わった方々のインタビューなども掲載されているとても充実した作りになっています。

 46号の本作は、アニメ版ドラえもんなどを制作しているシンエイ動画の専務取締役・別紙壮一氏へのインタビューや30年にわたっての制作年表、創業から現在までの各年代にわたる主要スタッフ・名作の分析や歴代作品に携わってきたスタッフの紹介などをメインとした「シンエイ動画大研究」と、さらにはアニメ版「パーマン」のパーマン1号や「怪物くん」のヒロシの声などを担当した声優・三輪勝恵さんへのロングインタビューの2大特集が中心。他にも「ドラえもん のび太と緑の巨人伝」の監督・渡辺歩氏による見所ガイドや作画監督を務められた金子志津枝さんによるサイドストーリーやイメージイラスト、コメントの寄稿、藤子・F・不二雄氏のアシスタントであったたかや健二氏による回想録マンガや古き名作「ウメ星デンカ」の解説と分析など、ファンにとっては濃厚でとても充実した記事が。その他にも「知る人ぞ知る」と言えるような作品の発掘記事や藤子不二雄A氏の誕生日会の模様など、盛りだくさんの内容となっています。

 未公認ながらも各社の協力を得ているという会報の記事内容は、まさに濃厚の一言。「シンエイ動画研究」では過去に在籍し現在第一線で活躍している宮崎駿氏や高畑勲氏、芝山努氏などにも触れていたり、劇場版ドラえもんスタッフによる寄稿などファンにとっては見所も多く、また三輪勝恵さんへのインタビューでは藤子作品以外の全仕事リストを掲載するなど(個人的にはテイジンのアテレコにまで触れていた細かさに脱帽)、細やかな作りが目立ちます。もちろん会員制サークルということで作品感想をはじめとした読者投稿もあるのですが、上映作品への辛口な意見があったり、有名作だけではなく短編の感想もあったりと作品に対して幅広い会員の方が真っ直ぐ向き合っている印象を受けました。

 それはスタッフの方々についても同様で、記事の内容一つ一つから藤子作品の愛情と熱意をひしひし感じられるほど。古い資料から新しい資料まで取り揃え、作品に携わった人や作品を取り巻く人・事象に取材し、様々な角度から作られる記事は大変読み応えあるものになっています。会員制サークルの会報という側面だけでなく、一冊の読み物としても完成された一冊と言えるでしょう。

2016/04/03(日)第25回「Nekomanma」「W・W・W」(オリジナル)


タイトル:Nekomanma (1~6・after・world)
       W・W・W(1~3(完))
サークル名:SCRATCH WORKS (Homepage)  作者:ZAWA☆さん
ジャンル:創作  購入イベント:コミックマーケット75(2008.12.30) ~ 続刊
傾向:シリアス&ほのぼの


「成長物語」はよくあるものの「成長の"その先"を描いた物語」というのは案外少ないもの。今回の2作品は「その先」を描き、異なる物語を包括した上でさらなる世界を描き出すという「成長していく物語」です。

「Nekomanma」はのほほんとした写本家の青年と、元気な猫族の少女のほのぼのとした日常のお話がメイン。逆に「W・W・W」は交通事故・殺人事件で家族を失った引きこもりの少女と、異世界の住人兼勇者なウサミミ少女のシリアスなお話がメインとなっています。可愛らしい画風は共通しているのですが、作風は相反していて読後の印象はかなり違ったものに。ですが、両作品とも読み進めていくつれ「ただほのぼのした作品」「ただシリアスな作品」という印象からだんだん変化していくのです。

「Nekomanma」ではしばらく続いていた「青年と猫少女のほのぼのした日常」が猫族の謎に触れるとともに変わっていき、「W・W・W」では「物語の根底で流れる暗い雰囲気」が勇者と魔王のシステムの謎に触れるとともに変わっていき、ついにはお互いの世界が共鳴するかのような形で変化を始めていくように。ネタバレになってしまうため詳細は割愛させていただくものの「出会いと別れを通じての成長」が一貫したテーマとして提示されており、別れがさらなる出会いに繋がっていくという「世界の成長」が描かれていて、ついには互いの世界もリンクするという形になっていきます。

「W・W・W」は一応の終わりを見ているものの、まだまだ主人公たちの物語は続いており「Nekomanma」にてその一端を覗くことが出来るという形。そして「Nekomanma」は「after」以降新シリーズとなり、今後も続刊していくとのこと。可愛らしく和める作品であるとともに、二つの「二人だけの世界」がどんどん広がっていく様子を楽しむことができる作品です。

2016/04/03(日)第24回「バイクは島を駆けめぐる!」(交通)

タイトル:バイクは島を駆けめぐる!
サークル名:森永組 (Homepage)  作者:森永みぐさん
ジャンル:交通(バイク)  購入イベント:コミックマーケット75(2009.12.28)
傾向:「WE RIDE チャレンジ三宅島モーターサイクルフェスティバル08」レポート


 関東ローカルのNHKニュースや東京MXテレビのニュースで時折耳にした「WE RIDE チャレンジ三宅島モーターサイクルフェスティバル08」(以下「WE RIDE」)。火山が噴火して甚大な被害を受けた三宅島の復興事業の一環として2007年から開催されているイベントで、一時は公道レースを開催すると目標を掲げていたのですが、安全性などにより海外のバイクメーカーが協賛するフェスタへと形態を変更され、今年も開催が検討されています。

 本作は「WE RIDE」の公式HPでWebコミックなどを執筆された森永みぐさんによるレポートマンガで、三宅島入りから各種イベントレポートの他、三宅島の現状や観光案内など多岐にわたる読み物で構成。バイクイベントとしてのレポートが主眼で、このイベントが取り巻く諸事情や島内で行われたアトラクションの模様、海外や国内のレーサーなどによるエキシビジョンレースがコミカルに描かれています。他にも温泉や島内グルメなどのレポートもあり、バイク好きの人がイベントの際に三宅島に訪れる際には手助けになりそうな本です。

 そして、ただ良い部分だけを描いて「良かった良かった」で締めくくるのではなく、このイベントやバイク業界、そして三宅島を取り巻く現状を冷静に見つめている記事があるのも深いところ。「イベントだけではなく根付かせることが重要」というくだりは、実際に参加された森永さんの率直な思いが感じられました。

 前出のとおり、作者の森永さんは本作の他「WE RIDE」の公式HP・2008年版でもWebコミックを掲載されていて、そちらでも本イベントの概要などをわかりやすく知ることが出来ます。

2016/04/02(土)第23回「ばよえ~ん!ぐぅぅ~」シリーズ(ぷよぷよ)


タイトル:がんばるたまご!ばよえ~ん!ぐぅぅ~
      おひさまさんさん!ばよえ~ん!ぐぅぅ~
サークル名:ぽこぺん、ぽこぺん。 (Homepage)  作者:東雲萌黄さん
ジャンル:ぷよぷよ通&ぷよぷよSUN  購入イベント:コミックマーケット50・53
(1996.8.4、1997.12.29)
傾向:アルル中心のオールキャラコメディ


 1994年頃から始まったアーケード・家庭用ゲーム「ぷよぷよ」シリーズのブーム。元々は「魔導物語123」というRPGの派生作品として発表されたものでしたが、全国でぷよぷよ大会が開かれるほどの盛況に。その人気から「なぞぷよ」「ルルーのルー」などさらなる派生作品などが生まれ、同人誌も多くのサークルから発行され即売会で人気を誇っていました。*1

 東雲萌黄さんが発行されたぷよぷよシリーズ本「がんばるたまご!ばよえ~ん!ぐぅぅ~」「おひさまさんさん!ばよえ~ん!ぐぅぅ~」は、各作品の個性豊かなキャラクターが一堂に会した同人誌。前者にはタカビーなウィッチが友人のドラコケンタウロスやハーピーのように空を飛んでみたいと願うお話や、下半身がトマトな羊・パロメッツと食いしん坊なカーバンクル(カーくん)、そしてアルルやマンドレイクをめぐるお話、後者には寝ぼけながら飛んでいたドラコケンタウロスが木にぶつかってしまい、サタン特注のクリスタルカーバンクル像を壊してしまうお話や、ウィッチがマンドレイクの花を狙っていたら変態*2まで乱入してきて、逆に守ることになるというお話など、バラエティ豊かな作品の数々が収録されています。

 それぞれのキャラが生き生きとしていて、ウィッチはタカビーでありながらも実は人情深かったり、カーくんの食いしん坊っぷりやフリーダムっぷりが目立っていたりと読んでいて実に楽しげな雰囲気があふれています。中でも目を惹くのは、唯我独尊キャラ・ルルーの性格をカーバンクルそっくりの容姿・サイズに詰め込んだオリジナルキャラ・ラビバンクルの存在。アルルのもとにいるカーくんを慕っている彼女は、ルルーと正反対にサタンのことを無茶苦茶毛嫌いしたりアルルをライバル視したりと何かと好戦的なのですが、ぷよぷよ対決中に踊っているカーくんに見とれて負けてしまったり、カーくんに自ら作ったクッキーを食べてもらって*3惚れ直したりとなかなか可愛らしいキャラなのです。完全なオリジナルとしてではなく、ルルーと似たもの同士にしたことで違和感なくぷよの世界に溶け込み、楽しんで読むことが出来ました。

 主要キャラだけでなく、多くのキャラが勢揃いの表紙もコミカルタッチで楽しげ。しっかりと「のみ」*4までいて思わず笑ってしまうほど。一つ一つのキャラがしっかりと、だけど表情豊かに描かれていてこっちまで笑顔になれる楽しい本でした。

*1 : 但し、その後コンパイルの業績不振・経営破綻により現在は下火になってしまいましたが……

*2 : 「魔導物語」シリーズからおなじみの白髪の魔導士・シェゾのこと。アルルに「お前が欲しい」と言い寄ってしまったがために「変態」と言われる。

*3 : でも、カーくんの中では「横取り」らしい……

*4 : そのものズバリ「蚤」。「ここにいる」と矢印付きで居場所が示される、おそらくゲーム界屈指の省ドット敵キャラ。

2016/04/01(金)第22回「保母はキュートな操獣士」(オリジナル)

タイトル:保母はキュートな操獣士(ぱいろっと)
サークル名:機甲梁山泊 (Homepage)  作者:矢薙じょうさん
ジャンル:創作  購入イベント:COMITIA in 東京87(2009.2.15) ~ 続刊
傾向:シリアス&ほのぼの・保育士+メカもの


 16年前、『V・A・C』――通称『夢喰い』と呼ばれる生命体の出現により、無数の"大人"たちが消え地球の全人口は1/3にまで減少してしまう。その後も『夢喰い』は出現を続け、ついには"幼い子供"たちの神隠しまで始まってしまった。『夢喰い』への恐怖から人口だけではなく出生率まで減少し、人類はかつてない未曾有の危機を迎えることとなる。だが、人類は『夢喰い』への対抗として子供たちのための防衛都市『保育防衛幼稚園《EX-Aide》システム』を構築し、その要となる『ヌイグル』と呼ばれるロボが子供たちを守ることとなった。この物語は、そのヌイグルのパイロット――通称『保母さん』の物語である。

 普段は滑り台やブランコなどになり、子供たちの遊具として過ごしている『ヌイグル』たち。彼らのまわりで子供たちがはしゃぐ姿はまさに保育園・幼稚園そのものなのですが、ひとたび『夢喰い』が現れれば対抗するロボとなり、保母さんがそれらを駆って子供たちの応援とともに戦っていくという形なのですが、複数の保母がパイロットだったり、多くの子供たちの応援がエネルギーになったりというのはかつてのロボットもの、中でも90年代に一世を風靡した「エルドランシリーズ」*1を彷彿とさせるような設定。しかし「保母も園児も、みんなが何らかの形で役割を担う」という年代を超えた繋がりにより、物語を引き締めた形になっているのが佳きところ。

 1巻は少し短めではありますが、戦闘シーンあり、子供たちとのエピソードあり、ロボの合体シーンありと内容が盛りだくさん。ロボも意志を持っていて、今回の主人公である保母・陽花と獣陸丸とケンカしたりと個性豊かなキャラが揃っています。今後も続刊を予定しているとのことで、5月のコミティアで頒布された「curriculum 2」ではさらにストーリーを増強した形になっていて、もう一人の保母・千由里を軸に別の園児とのドラマが展開したり、ライバルらしき組織が出現したりとさらに見所が増えています。

*1 : 「絶対無敵ライジンオー」(91年)、「元気爆発ガンバルガー」(92年)、「熱血最強ゴウザウラー」(93年)。どれも主人公は小学生たちであり、特に「ライジンオー」「ガンバルガー」はクラス全員が役割を持って敵と戦うという設定でした。

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