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タイトル:それいけぷちな!
サークル名:TeaPot (Homepage) 作者:楓菜あきのさん(現・みやびあきのさん)
ジャンル:創作 購入イベント:コミティア in 東京87(2009.2.15)
傾向:普通の女の子と謎の小人・ぷちなのお話
町中を歩いている最中、近所の公園で子猫と対峙している小人を見つけた女の子・橙香。獰猛な表情を見せていた小人だったが、たった一回の攻撃を受けただけであっけなく敗北してしまう。放っておくわけにはいかないと橙香が小人に近づくと、その頭には見慣れない黒と白の二本の角が。それに触ろうとした橙香に威嚇するものの、小人はすぐに気絶してしまい、心配した橙香によって家に連れ帰られることになる。
楓菜あきのさんのサイト「TeaPot」の看板娘・ぷちなを主人公にしたオリジナル漫画で、人間界にやってきたぷちなと同居することになる橙香、そしてぷちなと違い一本の白い角を持った謎の小人・まるの3人によってお話が展開されていきます。橙香の腰ほどしか背がないぷちなは最初反抗するものの、物怖じしない橙香とふれあっていくことによって、怒ったり笑ったりと可愛らしくころころと表情を変えていくように。頭についてる白と黒の角も可愛らしいのですが、この角がお話の要となっていて日本のとあるおとぎ話を交えた形で橙香も関わっていくことになります。
ぷちなだけでもやんちゃなのに、同じくやんちゃで同じ背格好のまるまでやってきて日常が一変してしまう橙香。でも、そんな二人を時には厳しく諭し、時には優しく二人を包み込んでいく彼女の表情は母のように慈愛に満ちていて、ぷちなの角のことにもしっかりと向き合うことに。ぷちなとまるの嬉しそうな笑顔を見ているだけでも橙香の優しさがこちらにも伝わってくるほどで、本編を読み終わったあとに目にすることになる裏表紙はそれがぎゅっと詰まったような暖かさに満ちあふれています。どのようなものかは書いてしまえば簡単ではあるのですが、是非とも本編の同人誌などで目にしていただきたいということで。
"青空"のような元気さと"夕焼け"のような優しさ。それらがすうっとしみていき、読んだ後にはココロがほうっとあたたかくなるようなお話でした。
タイトル:新剣銃士フランスファイブ 日本限定版超大全集
サークル名:黒漫画党
作者:工藤稜さん、TDK ROTTERDAMさん、ファイト吉晴さん、平木直利さん、さいさいさん
耕平さん、Sebastien Desarmauxさん、Alex Pilotさん
ジャンル:評論・特撮 購入イベント:コミックマーケット67(2004.12.30)
傾向:「新剣銃士フランスファイブ」解説本
戦隊物といえば、日本における子供たち・大人たちにとっての定番作品。本家本元のテレビ朝日系での戦隊物もあれば、派生作品もメジャーなものから「愛國戦隊大日本」のような自主制作のものまで様々あり、様々なクリエイターに影響を与えていることが伺えます。海外でも本家戦隊物をモチーフにしたアメリカの「パワーレンジャー」が有名ですが、アマチュアムービーとして「愛國戦隊大日本」に影響され制作されている「新剣銃士フランスファイブ」という作品があります。詳しい内容などはWikipediaや公式サイトに譲るとして、今回は戦隊物のお膝元・日本で制作された本作の「大全集」を紹介いたします。
日本でも子供向けに戦隊物の大全集が存在し、カラーをふんだんに使ったりカタカナにも平仮名のルビを振ったりという傾向がありますが、こちらの大全集もそれを踏襲しカラーページにて主人公たちや敵組織の紹介があったり、本文の扉から数ページはフランスファイブや敵の勇姿を交えたルビをふんだんに使ったコミカルなシーンが展開されたりと、大人になった今としては昔懐かしの趣向が凝らされていて興味が惹かれる始まりとなっています。
全話エピソードや名場面の紹介、監督からのメッセージや制作秘話などの解説本としてツボを押さえた要素はもちろんのこと、各出演者・スタッフのアンケート回答や小説、補足テキストといった読み物まで大変充実しているのが嬉しいところ。巻頭の主人公紹介では必殺技や作中でそれぞれの人物が活躍しているシーンが惜しげもなく使用され、作品の魅力を余すところ無く伝える巧みな構成が光っています。また、表紙をめくれば表に主人公たち5人が中心の写真、裏に敵幹部・エクスタシーの艶めかしい写真を使用した綴じ込みポスターが封入されているというおまけまで用意されているという凝りよう。まさにいたれりつくせり。
もちろんそういったところも見所なのですが、個人的に一番興味深かったのは制作者アンケートの回答。制作者の方々それぞれがどういったきっかけで「フランスファイブ」に関わったかといったものから日本に関することなど、作品に対する愛情や日本に対するリスペクトなどが隅々から感じられました。元々「フランスファイブ」は監督のAlex Pilot氏を始めとした方々が日本の文化に触れ、そのリスペクトの結晶として制作された作品。そして、作者欄にもあるように日本の様々な方々が関わり、作品だけではなく制作者の方々への愛情が込められたのがこの一冊。日本のファン側だけではなく、フランスの制作者側にとっても「フランスファイブ」という作品に対するリスペクトの結晶ともいえる一冊なのではないでしょうか。
なお、原作は2013年現在各動画サイトに投稿されており、ニコニコ動画でも日本語字幕で視聴することが出来ます。本編も2013年5月にエピソード全6本にて完結。特撮、そして戦隊モノに対する愛情がたっぷり詰まったシリーズです。
タイトル:I LOVE POLAROID
サークル名:antiques (Homepage) 作者:ひなた翔さん
ジャンル:創作 購入イベント:コミックマーケット75(2008.12.30)※
傾向:ポラロイドカメラにまつわる出来事
※コミケ75では準備号を購入。完全版はメロンブックスにて3月に購入。
撮ってからすぐに現像されるお手軽さと、柔らかい独特な風合いなどが特徴で長年愛されてきた写真機・ポラロイドカメラ。愛好家の間で愛されてきた名機ですが、昨年の夏に専用フィルムの生産を終了することが発表され、現在市場で出回っている製品で販売が完了することになってしまいました。
こちらの作品は、そのポラロイドカメラに出会った女の子の物語。友人・ゆうが持ってきた、重みがあって独特の形をしたカメラを目にしたちかは、触らせてもらったり撮らせてもらううちにポラロイドカメラの魅力にはまってネットオークションで自分専用のポラロイドカメラを入手する。ゆうにアドバイスしてもらいながら、まず手始めに自らが育てている鉢植えの花や、降雪後に作った雪うさぎをレンズにおさめるちか。しかし、無情にも時間は過ぎ、ポラロイドフィルム生産終了の知らせを目にすることになってしまう。
新しいおもちゃを手に入れた子供みたいにポラロイドカメラを組み立てていくちかと、ポラロイドの楽しみと悲しみを分かち合ったゆうの二人により、まるでポラロイドカメラとの想い出を愛おしむかのように、ゆっくりとお話が展開していきます。カメラや被写体それぞれの描写も丁寧で、終盤に「3」と示されたフィルム枚数もその残り少ない時間を示しているかのよう。二人がカメラを手にするときの手つきも、愛しそうな細やさかが感じられます。
また、前後カラー口絵には実際にポラロイドカメラで撮影されたと思われる様々な風景が収録されていて、少しくすんだような、だけどほんわりとした独特の柔らかな色合いを楽しむことが出来ます。漫画とともに実際撮影された写真が収録されていることで、ポラロイドカメラを知る人だけでなく知らない人もその独特さを実際に見ることができる形になっているのが構成として巧み。作者であるひなたさんがポラロイドカメラに込めてきた愛情や感謝が感じられる、とてもあたたかい作品だと思いました。
タイトル:パパは小学4年生
サークル名:MEGAPLUS (HomePage) 作者:廈門潤さん(現・陸乃家鴨さん)
ジャンル:ママは小学4年生 購入イベント:コミックマーケット67(2004.12.28)
傾向:本編後の未来、今度は大介がタイムスリップする。
かつて「日本テレビ夕方5時」といえば、アニメ作品の黄金時代を築いていました。中でも日本サンライズ(現・サンライズ)制作枠は非常に人気が高く、88年の「魔神英雄伝ワタル」を皮切りに、89年「魔動王グランゾート」、90年「魔神英雄伝ワタル2」、91年「新世紀GPXサイバーフォーミュラ」、92年「ママは小学4年生」までの計5作品は子供たちだけでなく女性にも人気があり、同人誌においてもこれらの作品はアニメ系のメインジャンルとなり単独作品アンソロジーが発行されるほどの人気を誇り、二十年前後経った現在でも多くの同人誌が執筆されています。
「ママは小学4年生」は、当時の日本サンライズとしては珍しかった女児向けのアニメ。小学4年生の主人公・なつみが未来からタイムスリップしてきた彼女の娘・みらいを叔母や友人たちと一緒に育てていくというお話で、子供が大人を振り回したりするコメディ要素とともに親子愛・家族愛というドラマ要素が随所に散りばめられた名作でした。
廈門潤さん(現在は主に「陸乃家鴨」さんとして活動中)もこの作品に魅せられたお一人で、近年まで「パパは小学4年生」シリーズを執筆。主人公であるなつみと大介が成長し、恋仲になっていく姿を300ページ以上にわたって描いた「夢見る時代を過ぎて」シリーズと、劇中劇を長編として描いた「銀河マン」シリーズ、そして未来でのなつみの夫・大介が未来へタイムスリップしてしまう「パパは小学4年生」の3作品を15年近くにわたって執筆されていました。今回ご紹介するのはその中から「パパは小学4年生」……小学生の大介と成長したみらいが出会うお話です。
結婚から幾年も過ぎ、倦怠期なのか夫・大介を冷たくあしらってしまう妻・なつみ。この日も仕事で帰りが遅くなるという電話を受け、10歳になったみらいに「そんなのじゃママに捨てられちゃうよ」と言われて大介は焦ってしまう。それでも構うことなくみらいがちくちくと大介をいばっているうちに、やがて外の雲行きが怪しくなり会話中に突然カミナリが落ちて電話が途切れてしまう。戸惑うみらいがリビングを見渡すと、テレビの中からいきなり見知らぬ男の子が……混乱する彼女に、なつみが「大介ぇ?!」という耳慣れた父の名前を口にする。彼こそが父・大介の25年前の姿なのだった。
未来から過去へ飛ばされる本編とはまるで逆の「過去から未来へ飛ばされる」という状況に、主人公・なつみでなくそのケンカ仲間であり未来における夫・大介を放り込むという奇抜な設定ながらも、未来の娘・みらいとの掛け合いも抜群で非常に軽快に読める作品に仕上がっています。なつみも大人の女性になっているものの、夫がいなくなってしまってなんとか自分で頑張ろうとする姿は子供の時と変わらず。でも、その傍らには立派に成長したみらいがいるわけで、彼女の元気さに支えられながら未来に放り込まれた謎をみんなで――過去へ飛ばされた大介を含めて解明していくという、公式に販売されていた後日談ドラマCD「ママは小学4年生 AFTER」とはまた違った「もう一つの未来」がここにあります。
残念ながら最終話となるVol.12の本誌を購入する機会を逃してしまったのですが、現在はDLSite.comにて前者2作を含めまとめられた作品がダウンロード販売されており、容易に読むことが出来ます。色々と言われているダウンロード販売ではありますが、過去に買い逃してしまった名作がこういった形で読むことが出来るのは非常に有り難いことだと思いました。
タイトル:天穹のリーベスリート
サークル名:ねこあぽ (Homepage) 作者:龍川ナギさん
ジャンル:創作 購入イベント:O2E the 4th(2008.10.26)
傾向:天使と悪魔のラブコメ
人を喰らい、神をも冒涜する闇の化身「悪魔」。初めて人間界にやって来た「劫火の悪魔」と呼ばれる凶暴な悪魔・ギートは仲間の忠告も聞かずに暴れ回っているうち、人間界を守護する神の「御使い」に目をつけられてしまう。恐れ知らずのギートは真っ向から立ち向かい「御使い」を押し倒し捕食しようと仮面をはぎ取ると、その下からは可憐な女の子の素顔が。そのまま押し倒しモノにしようとするギートだったが「御使い」・ミュリエールから最強最大の"天罰"を喰らい、そのまま神に捕まりキツイお仕置き――ちっこい姿に変えられ、"天罰"を勝手に使って謹慎させられたミュリエールとの同居を命じられてしまうのだった。
性悪で暴れん坊な悪魔・ギートと、ちょっとぽやんとしてるけど怒らせると怖い天使・ミュリエールのコミカルなラブコメです。前記のとおり性格が全く合わない二人な上、ちんまりとしていても性格は相変わらずなギートはミュリエールをことあるごとにいぢるのでいつもプチケンカしてばかり。でも、ミュリエールはちびギートの姿を見て思わず抱きしめてしまったり、ギートは寝こけてしまったミュリエールに「風邪ひくぜー」と気遣う面も見せたり、そう満更でもない様子。ギートもやがてミュリエールとの同居に馴染んでいき「御使い」としての本来の彼女の姿に触れていくことになります。時折辛そうだったり、悲しそうな表情を見せるミュリエールに、気遣いながらもあくまでも自分らしさを貫き通して彼女を引っ張っていくギートの姿と、それに頼るようになっていくミュリエールの姿が見ていてとても可愛らしく感じられます。
デフォルメ頭身・リアル頭身ともにとても勢いのある絵のタッチで、ギートの荒々しさとミュリエールの美しさがストレートに伝わってくる作りになっています。特にちびギートは可愛らしいのなんの。最後にちょこっと見せるミュリエールの笑顔(inギートの腕の中)も微笑ましいものでした。
作品を彩る他のキャラも、怒らせると怖いパパさん(神)におネエ系な元悪魔、義理人情に厚い悪魔と実に多彩。お話としてもまだまだ広がっていくような展開で、あとがきでもそれを示唆するような文面があったので続編がとても楽しみです。
タイトル:「屋上のカノジョ」「廃屋のカノジョ」
サークル名:辺境屋 (HomePage) 作者:木野 陽さん
ジャンル:創作 購入イベント:COMITIA 90(2009.11.15)
傾向:ほのぼの建物ファンタジー。住人と"被"住人の物語。
あらゆる建物の屋上や屋根に、小さな社が建つ大都会。その社には「屋敷童子」が住み家を護っているけれども、老朽化した建物はさすがに解体しないといけない。そんな屋敷童子たちと意志を通わせることができる解体コンサルタント・山田は、古くなった建物の社を廻っては彼らから解体の許可を得る役目を負っていた。それは山田の住まいである築六十年のボロアパートでも例外ではなく、屋上菜園を兼ねている屋上で屋敷童子がいるはずの社に訪れることに。そこに屋敷童子の姿は無く、途方に暮れる山田をよそに菜園の発案者でありちょっと気になる女性・日高さんと住人のおばさんたちが菜園へとやってきた。楽しく収穫をしながらも今の"住まい"が解体されることに不満を募らせるおばさん方。その会話を聞いていた日高さんも表情を曇らせ……
「座敷童子」ではなく、建物をまるごと守護している「屋敷童子」と、その建物を壊すために交渉する「解体コンサルタント」のお話。少し気弱な山田と快活な日高さんが中心となり「住んでいる人」「住まわれている人」、「壊す人」「守る人」といった相反した立場を見せつつ物語が展開していきます。もちろん他にも建物の住人がいたりするのですが、それと同じように建物に「住まわれる」屋敷童子がいて、それぞれが様々な姿を持ち、それぞれ自らの想いを持っているというのが非常に個性的。解体することに納得する住人・屋敷童子もいれば、納得できない住人・屋敷童子もいる。その狭間で「壊す」という立場でいる山田の、そして立場の垣根を越えてしまった日高さんの姿を通して、彼らの想いが綴られていきます。
壊すための交渉は、山田にとっての「仕事」。自らの住まいを壊すことさえあまり躊躇していなかった中で直面した屋敷童子の想い、日高さんの想い、そして自らの想いにより彼は強く動揺してしまうのですが、自らの立場を熟慮した上で屋敷童子のことや日高さんの想いを理解し、その後奔走していく姿は「ただ仕事を進めるだけ」だった冒頭からの彼の成長が伺えるものでした。終盤の「新しい場所」に元住人などの人々が集まり、日高さんが山田に見せた笑顔はそんな彼らの「想い」の結実とも言えるでしょう。
ほのぼのとした雰囲気の中でも、ひしひしと人々や童子たち想いが感じられた本作。夜のアパート前が描かれた表紙は、窓から見える灯りや住人の表情から生活が伺え暖かみのある"プロローグ"。そして、最後のページまで読み終わってからまた表紙をめくって見る扉絵は、建物のミニチュアとともに物語に関わる人々などの姿が描かれた"エピローグ"……確と定義されているわけではないのですが、そう思えるくらい本の全体が物語となっていて、全てを読み終えて初めて感じられたその構成にと思わず「やられた!」唸ってしまいました。
なお、本作の後日譚となる「廃屋のカノジョ」という作品も制作されていまして、一本目となる表題作は2010年春に行われたコミケットスペシャルin水戸の会場とおぼしき場所が舞台となっており、かつて栄えながらも衰退した「建物」が抱く想いが、そして二本目の「鉄塔のカノジョ」はまだ東京スカイツリーが建造中の時期で、この後地上波デジタル放送などの発信機能が移転されてしまう東京タワーの悲しみと想いが描かれています。もしもこの先建物が無くなったとしても、無くならずとも衰退していったとしても、そこに人々の想いが積み重なっていたのは確かなわけで「屋上のカノジョ」から繋がる物語として暖かさが増すような作品でした。
タイトル:「見晴ンです」「見晴ンです2」
サークル名:茶々組 (Homepage) 作者:竜之介さん ジャンル:ときめきメモリアル
購入イベント:コミックマーケット50・ときめきパーティーセンセーション3(1996.8.4、1997.5.25)
傾向:突撃王・館林見晴の戦歴の数々
※現在、在庫は無くなっており完売とのことです。
1994年「ときめきメモリアル」がPCエンジンにて発売。その後95年からプレイステーション、セガサターン、スーパーファミコン、Windowsといった主要ゲーム機に移植され、爆発的に人気が広がっていった、家庭用ゲームにおけるギャルゲーの元祖とも言える作品です。登場キャラクターが多く、二次創作においても想起させるような要素が多かったことから同人誌も数多く発行され「ときめきパーティーセンセーション」などの様々なオンリーイベントが開かれました。
ゲームでは藤崎詩織や虹野沙希といったメインキャラの他、伊集院レイや館林見晴という隠しキャラも存在し、特に見晴はゲーム中にぶつかってきたりしてちょこちょこ存在感を主張したり、隠しイベントで今で言うストーカーチックながらも、エンディングやその隠しイベントで見せる健気さでメインキャラに匹敵する人気を得ていました。今回の同人誌はその館林見晴をフューチャーした「見晴ンです」シリーズ。「ぶつかってくる」=「突撃」ということで「突撃王」と冠された彼女の活躍……もとい暴走が繰り広げられる同人誌です。
朝日奈夕子固有イベントで夕子が主人公にぶつかったのを見た見晴が、それに倣って突撃したことで主人公に大怪我を負わせたことを皮切りに、自分の情報を漏らそうとした主人公の友人・好雄に突撃(3Fの窓から落下→救急車)、別ヒロイン・沙希に応援されそうになったところを突撃(キャプ●ン翼ばりにゴールネットを突き破る→瞳孔開く)、正体を明かしたレイをぶん殴った勢いで伝説の樹にぶつける(伝説の樹、脆くも折れる)など突撃王としてやりたい放題。2ではさらにフォークダンスで踊りたいがために他の女子に突撃したり(校庭が阿鼻叫喚の嵐)、隠しイベントで別れを告げつつ突撃したら紐緒結奈に目をつけられて返り討ちにしたり(世界征服から救うことに)と、彼女の突撃王っぷりが余すところ無く繰り広げられていきます。
突撃だけではなく、1では意図的、2では偶発的に詩織の爆弾を炸裂させるという策士っぷりも。最終的にはその詩織と対峙することになって彼女の完璧っぷりに負けてしまい、主人公に別れを告げるとともに伝説の樹にも別れを告げ突撃(主人公&詩織がそのとばっちり)……彼女の印象といえば確かに「よくぶつかってくる女の子」ですが、それをここまで広げるのは凄まじいなと思いました。本編だけでなく、両作の裏表紙(1は二人の思い出の写真、2は隠しイベント中涙する見晴の写真)も実に愛情がこもった作画。特に1は原作のおまけでは想い出の場面が少なかっただけに、物語の裏側ではこんな感じだったんだろうなと感じられる佳き構成でした。
竜之介さんといえば本作の他にもバイオレンスな詩織や告白直前でヒロイン全員がバトルロイヤル(notロワイアル)といったインパクトの強い作品が印象的でしたが、見晴が一番のお気に入りということもあってか、本作はまさにその真骨頂ともいえる作品でした。
タイトル:「今、そこにいる僕ら」「ジエンドオブノスタルジア」
サークル名:狭山組 (Homepage) 作者:サヤマユキヒロさん
ジャンル:十兵衛ちゃん ラブリー眼帯の秘密 購入イベント:コミックマーケット75(2008.12.28)
傾向:1と2、それぞれの後日談。回想とほんのり片思いと親馬鹿と。
※今回は「十兵衛ちゃん」シリーズのネタバレをちょろっと含みます。
10年前にテレビ東京系深夜枠で放送されたアニメ「十兵衛ちゃん」。2代目柳生十兵衛が実は「ぽちゃぽちゃのぷりんぷりんのぼんぼーん」だったという奇抜な設定から始まった作品は大地丙太郎監督の指揮により時には友情もの、時にはバトルもの、時には家族ものにと様々な姿を見せ、人気を博していました。同人誌界隈ではというと関東ローカルということもあってかあまり盛り上がりを見せなかったものの、根強く執筆される方もおり今なお続くジャンルとなっています。今回は「狭山組」というサークルさんの作品をご紹介。
「ジエンドオブノスタルジア」は1の、「今、そこにいる僕ら」は2(シベリア柳生の逆襲)のアフターストーリーで、前者は十兵衛と竜乗寺一族の遺恨が決着した後、取り壊されている竜乗寺邸を前にかつての当主・ハジメとその配下・御影が様々なことを振り返ったり、今を見つめるお話で、後者は十兵衛の忘れ形見・フリーシャとかつての敵であり現在は郵便配達のお兄さんな喜多歩郎が、十兵衛の想い出を話しつつもじゃれ合うというお話。それぞれ後日談ということもあり、本編のようなどんでん返しもなくほのぼのとしたお話に仕立てられています。竜乗寺一族の恨み辛みを一手に背負っていたハジメは狡猾さをちょろっと見せながらも丸くなっていますし、御影も2との合間ということですっかり優しく。かと思えば、フリーシャは相変わらずツンツンで喜多歩郎は不器用といった風に噛み合ってなかったり(一方的にフリーシャがいじってるとも言う)と、発展してるところもあればしてないところもあるという「彼ららしさ」が随所で見られるのが楽しいです。
個人的にツボだったのは「今、そこにいる僕ら」での菜ノ花家の家長・彩の親馬鹿っぷり。丁寧にご挨拶に来た喜多歩郎を邪険にし、用件を聞いた途端殴打一閃。2の後日談ということで主人公・自由だけでなくフリーシャの親代わりにもなった親馬鹿・彩としてはそんな挨拶は許せないんでしょうなぁ……しかも、喜多歩郎はちゃんとわかってないまま挨拶に行ったような感じと、まさに不器用な彼らしさ全開。それを彩が聞いたら左頬だけじゃ済まないぞと思ってしまったり。こういう感じに平和だったりドタバタな後日談が展開されていくのも、原作を愛する方々ならではの発想だなと改めて感じました。
タイトル:市松
サークル名:YUMBOX (Homepage) 作者:YUMBOXさん
ジャンル:創作 購入イベント:コミティア in 東京87(2009.2.15)※
傾向:喋る市松人形と、その過去
主が亡くなり、誰も住む者がいなくなってしまった家。日名子は祖母がかつて住んでいたその家を訪れ、家族で遺品整理をする前に埃払いを始めようとしていた。雨戸を開け、風鈴が鳴り光が差し込む家……だが、そこに突然少女以外の声が。慌てて日名子が振り返ると、膝丈ほどしかない大きさの市松人形が彼女を見上げていた。古めかしい口調で話す人形は、自らを「祖母の友人」と称し驚く日名子に祖母との日々のことを語り始める。
彼女のことを何も知らなかった少女と、長い間、死してもなお共にいた祖母の"友人"との物語。市松人形・貴子によって少女は祖母・佐和子がどのように過ごしてきたかを知ることになり、佐和子と貴子が仲良く過ごした学生時代から突然の暗転、長らく続いた"二重生活"から再び始まる二人だけの時間、その終わりまでがゆっくりと語られていきます。何も知らない日名子にとっては何もかも興味深い出来事で、貴子はそんな彼女に聞かれるまま思ったままを話していくことに。それは幸せでもあり、悲しくもあった日々……市松人形としての姿は自らに対しても、そして佐和子に対しても呪いのような形で互いを縛り、すれ違ったまま終わりを迎えて貴子だけが取り残される形になってしまいます。
「親しい二人だけで過ごす」というのは見た目には甘美な響きですが、貴子に罪悪感を持つ佐和子は楽しかった頃の昔語りしかせず、貴子も気付きながらただ流されるまま。新しい時間が始まったと思っても、物憑きの貴子は年老いていく佐和子に置いていかれてしまうわけで、淡々と語られる想い出は一見楽しそうでも、貴子の根本にある後悔と悲しみの念がひしひしと伝わってきます。それらは「幸せだった?」という日名子の問いに堰を切ったように流れ出ていき、自らが佐和子にすべきだったことをようやく悟るのですが、もう過ぎてしまった時間が戻ることはなく……でも、そんな貴子の想いを聞き届け、"貴子"であったものを抱き寄せた日名子の表情と願いに、貴子が日名子に語ることが出来たのはせめてもの救いだったのかな、と。
激しく揺れ動く想いと、穏やかに流れていく時。すべてが過ぎ去ってしまった過去だからこそ静かに語られていく一つ一つの想いが切なく、そして切実に感じられる作品でした。
タイトル:「手のひらの宇宙」
サークル名:岡崎工房 作者:岡崎裕樹さん
ジャンル:ドラゴンクエスト5 天空の花嫁 購入イベント:コミックマーケット74(2009.12.28)
傾向:敵襲により記憶を失ってしまった双子の弟。守れなかった姉は記憶が戻らないことに焦りを覚え……
もはや国民的RPGと言っても差し支えないゲーム「ドラゴンクエスト」シリーズ。ファミリーコンピューターからスーパーファミコンにプラットホームを移した「ドラゴンクエスト5 天空の花嫁」は幼年期から青年期までという長い時の流れを舞台とし、妻を娶り、魔物が仲間となり、主人公ではなく生まれてくる息子が勇者になるというこれまでとは異なる構成の作品でした。その後、プレイステーション2やニンテンドーDSにも移植されるなど長い人気を博し、同人誌でも様々な方が本作の物語を描かれています。
本作は、主人公・リュカの息子であるレヴィストと、その双子の姉であるファーナのお話。戦闘中、ギカンテスに痛恨の一撃を放たれたレヴィストは昏睡の後に全ての記憶を失ってしまう。両親のことも仲間だったモンスター達のことも忘れたことに不安を覚えるレヴィストだったが、中でもファーナの悲しそうな表情が脳裏に焼き付いていた。ファーナも同様で、レヴィストを連れ歩くことで記憶が蘇ることを期待するも状態は変わらないまま。そして、思い出せないことを謝るレヴィストに彼女は「レヴィストのことなんか、もういらない!」と告げ、ルーラで去ってしまうのだった。
全てのこと――勇者であったことさえも忘れてしまった弟と、彼との想い出を心に刻み続けている姉。双子のうち自らでなくレヴィストのほうが勇者となり寂しかったことも、二人でサンチョを追い両親を捜すために城を出たことも、何もかもがファーナにとって全てが大切な想い出。いつもその手にはレヴィストの手を握っていて、導かれたり、ともに勇気を出し合ったりしていた。でも、何もかもを覚えていない彼に手を握られたことを拒絶したときには、それらの全てを失ってしまったという絶望感が感じられました。それだけレヴィストと一緒であったことが大切だったということだと思うのですが、それはレヴィストにとっても一緒。記憶を失ってしまった彼にとってもそれは拠り所だったようであり、やがてそれが希望へと繋がっていくシーンには二人の絆の強さが感じられます。
PS2版・DS版でこそ彼ら双子の台詞が多く用意されていますが、こうして互いの想いや葛藤というのはなかなか見えないもの。自ら勇者でないことへの葛藤や両親を見つけるという強い決意などが様々な登場人物とのやりとりの中で感じられ、あのシーンの裏側ではこんなやりとりがあったのかなという想像が自然に広がっていくかのような思いでした。また、リュカとビアンカといった両親もしっかりお父さん・お母さんしていて、ビアンカはファーナを抱きしめ、リュカは優しくも真正面からしっかりと諭しているのは微笑ましいところ。「家族」というのがしっかりと描かれているのが、とても見応えがありました。
岡崎さんが執筆されたDQ5を題材にした作品は多く、過去作品総集編となる「dear our wonderful lives」はビアンカ編、フローラ編ともに描かれていて、それぞれの両親の影響を受けちょっとずつ性格が違う双子たちが読めるのが興味深かったです。双子だけの物語ではなく、ヘンリーやコリンズ、プサン(マスタードラゴン)や「かつての天空城にいた女性」、そして「導かれし者」など、彼らにまつわる人々たちとの時を越えた――さらには「世界」を越えた物語にもなっており、姉弟や親子としての関わりや、友達や祖先との関わりといった様々な「絆」が広がっていくのがとても心地よかったです。
OK
キャンセル
確認
その他